第4話 獲物は逃さない
「今のうちに、早くコアを露出させろ!」
ミノタウロスの攻撃を惹きつけているタンク役のラファウが合図すると同時に、ソニアが素早い動きで奴の身体を切り刻む。
だけど……。
「はぁ、はぁ……切った瞬間に傷口が塞がってしまいます……!」
「ソニアちゃんどいて! ラファウの旦那、今からぶっ放すから気をつけろ!」
レックはソニアがバッと退いた瞬間に両拳を魔法陣に突き入れ、今までのを10本は束ねたような太さのレーザー砲っぽい魔法をを放つ!
「オラァッ! コアごと吹き飛ばしてやらあ!」
言葉通りにミノタウロスの胴体に風穴を開けたが……みるみるうちに塞がってしまう。
そして奴は間髪入れずにその太い腕に力を込め、ラファウを振りほどきにかかった。
「フモォーーッ!」
「グアッ!」
「ラファウさん!」
「こっちは大丈夫だ。それより来るぞ!」
ミノタウロスは大きな口を開けて息を吸い込み、咆哮を放ってきやがった!
「ヴオォォーーッ!」
「クソがぁ! 足が……」
「う……動きません」
「うわっ。どうすればいいの?」
「慌てるな。そのうち効果が切れる、それまでの辛抱だ」
「おい、ウスノロのミノタウロス! こっちだこっち!」
「ハヤトの奴、いつの間に背後に回ったんだ?」
「ハヤトさんがミノタウロスを惹きつけようとしています。その間に、私たちは反撃の準備を」
そうそう、ソニアはオレの考えを素早く理解してくれるので助かる。
そして実際に奴はオレの方へ振り返りギロリと睨んできた。
言っとくがオレの神速にお前はついてこれねえ。
精々時間を稼がせてもらうぜ。
しかし、奴は結局またパーティメンバーの方へ向き直し、その視線は鎧を身に着けていないヒーラーのリラへと向けられた。
一番防御の弱いところから狙うって、なかなか狡猾な野郎だ。
しかも此方は回復手段を失う。
「きゃああああああああ!」
リラに巨大な斧が振り下ろされる。
オレはとにかく走り出した。
そしてリラをお姫様抱っこみたいに抱えながらダンジョンの奥へと逃げ込む。
「ちょっと! 恥ずかしいから降ろしてよ!」
「無茶苦茶言ってんじゃねえ!」
とはいえ、お姫様抱っこってめっちゃ腕が疲れる。
どの道どっかのタイミングで降ろさねばなのだが、奴がしつこく追い回してくるのだ。
しかしここでラファウが奴に向かって叫ぶ。
「こっちだ。お前の相手は俺だ!」
ようやく動けるようになったのか、タンク役として奴を惹きつけてくれた。
それからレックのレーザー砲が奴の胴体をぶち抜いたが、やはりダメージもコアの露出もなし。
だけど彼らが奴を惹きつけている今のうちにソニアのところへ高速移動してリラを預ける。
「リラさんは、丁度後ろにある岩陰に隠れてください。ハヤトさん、コアの位置は見えてますか?」
「いや全く。とにかく一瞬でいいから露出させねーと」
「……わかりました。ラファウさん、レックさん。申し訳ありませんが少しの間、援護お願いします!」
そう言って走り出したソニアは、ラファウの槍攻撃とレックのレーザーで一瞬怯んだミノタウロスに数十回の斬撃をあっという間に浴びせたのだ。
その傷はすぐに塞がっていくが……一瞬だけ光って見えた物が。
あれがコアで間違いないだろう。
そしてオレには、それが奴の体内のどこに移動しているのかを把握できている。
オレのもう一つのスキル『窃盗』は、一度認識した獲物がどこに隠されても必ず位置が見えるのだ。
「レック! このあとオレが指示する場所を即座に撃ち抜いてほしい!」
「あぁ? 何でおれがテメェの言う事聞かなきゃなんねんだ?」
「……お願いしますレックさん。彼の指示どおりに撃っていただけませんか?」
「クソッ、しゃあねえな。どこかとっとと言えクソガキ!」
オレは撃ちやすそうな場所に来るのを見極め、レックに指示を出す。
「奴のヘソのあたり!」
「オラァッ!」
レックのレーザー砲でコアが遂に体外へ飛び出し……オレは既にそれを左手に捕らえた。
でも肉片がついたままで気持ち悪い、っていうか少しずつ肉片が増えてきてる。
オレは右手で左手の手袋からコアを引き剥がし、ソニアへ向かって投げつける。
そしてソニアの斬撃によってコアは粉々に破壊された。
最後に断末魔を上げながら肉体が崩壊していくミノタウロスを、レックが特大のレーザー砲で消し飛ばしたのだった。
かくして、今回の目標は達成された。
リラによってパーティメンバーの回復を行った後、オレたちは速やかにダンジョンを出たのであった。
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