第4話 少年呼びお姉さんと灯台と僕

 階段を上がった先には公園があった。舞台のように一段高くなっている白い円を中心に青いタイルが敷き詰められた広場が特徴的な公園で、その奥には赤い瓦で上部を飾った白い壁があり、その上には白い三角屋根の古代ギリシャ神殿風の東屋あずまやが建っていた。よく晴れた青空の映える日なら、それこそ地中海の観光地にでも来た気分になれただろうと思える場所だった。


「寒っ」


 けれど今日は生憎の曇り空に冬の寒風が吹きすさんでいる日で、お姉さんが酒をちびちびやりながら正直過ぎる感想を漏らす。


「灯台はこの上かな?」


 その言葉にまたしても一瞬身体が強張ってしまった僕より先に、お姉さんは階段を上がって公園の奥へと進む。


「お、灯台見えた」


 階段の上には西洋庭園風の広場があり、そのむこうに白くそびえる十メートルぐらいの高さの灯台が見えた。

 灯台。


「……どうした少年?」

「――あ、いえ、なんでも。灯台ですね」


 灯台を見て安堵している自分に驚いて、階段の途中で足が止まっていた。そうだ。灯台だ。その姿を見ることで初めて言葉と実体が一致して、僕の身体はようやく怯える必要のないことを認めて安堵してくれたのだ。そして僕はそのことにとても情けなくなって、脱力に足を止めたのだった。本当に情けない。


「なんか灯台に嫌な思い出でもあるの?」


 僕の様子がおかしいのは自分でも自覚できるレベルだったから、お姉さんのこの疑問は当然のことだった。


「今日がその日にならなければいいなとは思っています」


 けれどそれを説明する気のない僕は笑顔を作ってそう答えをはぐらかした。お姉さんは納得していなさそうに眉をひそめたけれど、僕の鉄壁の作り笑顔を前に追及を諦めたのか、肩をすくめて首を左右に振った。


「なんかだんだんと生意気になってきててお姉さん悲しいよ。まあ、ジョークを返すくらいの元気があるならいいけど。なんか灯台って言う度にビクッてなってる感じだったから、灯台に親でも殺されてんのかと思ったわ」


 そのお姉さんの冗談に僕は噴き出して笑い、


「当たらずとも遠からずですね、それ」


 それだけ言うと、目を丸くしているお姉さんを後ろに灯台へと歩いていった。

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