第3話 失われる技術
「……すまないが……前にも言った通り、これ以上水かさを変えることは出来無いんだ……」
「そんな! そこをなんとか!」
男はノッケンに必死に頭を下げ、懇願する。
しかしノッケンはそれを申し訳なさそうに断り続けた。
「……水かさを変えることは可能なんですね」
そして、そのノッケンの発言から、先ほどのノッケンの言葉は嘘であると分かった。
すると、ノッケンは申し訳なさそうに答える。
「……あぁ。認めよう。だが彼にも言った通り、これ以上水かさを変えることは出来ないんだよ」
「……何故ですか?」
そう聞くと、ノッケンは頭を下げ続けている男に近付き、肩に手を置く。
「申し訳無いが、本当に駄目なんだ。応急処置なら君達でも出来るだろう? 応急処置で少しでも命を永らえさせるんだ。そうすればいずれ水かさも減り、医者にも見せられるかもしれない。……すまない、どうしても駄目なんだ」
「……」
「今後、必ず医者がいるとは限らない。これは自分達の手でどうにかする術を手に入れる為の試練だ。私に頼り切りなのもいけないよ」
ノッケンが優しくそう言うと男は頷いた。
「……分かりました! 俺達の手で何とかしてみせます!」
そして、男は踵を返してその場を去った。
「……で、何故か教えてもらえますね?」
「あぁ。良いだろう。こっちに来なさい」
ノッケンに小屋の地下室を案内される。
それは、先程までの集落とは全く違い、近代的なパイプや電線等が張り巡らされた廊下を歩き、突き当たりまで行く。
そこには赤いハンドル……いや、バルブがあった。
そのバルブは厳重に封印されており、ありとあらゆるもので動かないようにされていた。
それの後ろには壁に大きな歯車がついており、壁と壁の隙間に入り込んでおり、全体像は見えなかった。
バルブを回すことで歯車も動き、何かが起こるのであろう。
しかしその歯車はすり減っており、長年使い込まれたことが見て分かった。
「……これは?」
「これは、ダムの放水量調整用のバルブだ」
ダム。
その言葉は、この時代ではすでに失われた言葉の筈だった。
「……君、ガーディアンズだろう?」
「……」
その言葉に一瞬反応する。
しかし返答をまたずしてノッケンは続けた。
「昔、儂が子供の頃にガーディアンリバーズが来たことがあったよ。荒廃し、廃れていく技術力の存続の為に協力してくれとな。彼らの組織の目的がそうだとは言え、既に集落も出来始めていた。父は断ったよ。先祖代々守り抜いてきたこのダムを手放す訳には行かんとな……」
「……ではあの湖は……」
ノッケンは頷く。
「あぁ。ダム湖だ。一体何年前に作られたものかはもう分からんがな……技術や文明が失われつつある時代に当時の残された技術者達が協力してなんとか築き上げた物らしい。何百年経っているのか……コンクリート製のダムの筈が、外から見れば堆積した土などでコンクリートの片鱗すら見えない。だからほら……」
ノッケンは歯車を見る。
「本来ならもっと凹凸がある筈の歯車が、もう殆どない。開ける時は水圧で簡単に開くだろうが、閉めるのはもう無理だと考えている。まぁ、ダム自体に既に限界が来ているのだが」
「……それでもう水かさを変えるのは無理だと……この施設のことを住民達は?」
ノッケンは首を横に振った。
「いいや、知らない。知った所で何も変わらんからな」
「……これほど大きな歯車、開けるのも閉めるのも人力では難しいのでは?」
「あぁ、水力発電で電力を蓄え、それで補佐している。然程重くは無いよ。まぁ、古いせいで発電量も蓄電量も少ないがね。修理することも出来ず、いずれ消えゆく技術なのだよ。そもそも、次に放水したらこの老朽化が激しいダムでは耐えられない。恐らく崩壊するだろうしね」
発電はされるらしい。
そして、この技術も限界が近いようだ。
ならば、二つの目的を果たせるかもしれない。
「……申し訳ありませんが、その電気をお貸しください」
「……何?」
「私は私の目的の為に動いています。確かに私は、ガーディアンリバーズの一員
リュックからクロスボウを取り出し矢をつがえ、それをノッケンに向ける。
「水門を開け、ダムを崩壊させてください」
「……君の目的とは?」
少しの間を置き、答える。
「先代文明の痕跡の除去、です」
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