第2話 水の神
「こんにちは」
先程の者らに言われた通りに進むと、集落が見えた。
湖の畔に築かれたその集落は小さいながらも活気があり、人々で賑わっていた。
そして、そこで話を聞き、例のノッケンとやらがいる場所を聞き、案内された場所へと訪れる。
そこには小さな小屋があり、扉をノックする。
「おぉ……いらっしゃい……どなたかな? ここの集落では見たことが無い顔だが……」
そこに居たのは老人であった。
杖をつきながら扉を開けたその老人はこちらを品定めするかのように見、小屋の中へと招き入れた。
(小屋……)
先ほどの集落はこのような立派な小屋は無かった。
皆、太古の昔の竪穴式住居のような暮らしをしていた。
この小屋、明らかに異様であった。
「旅のお方かね? いやぁ、旅のお方が来るのは何年ぶりだろうか……」
こちらの装いから推察したのか、旅の者と言い当てた。
しかし、そこには食いつかない。
「……変わったお家に暮らしてるんですね」
「ん? あぁ……この家は儂が代々受け継いできた家でね。小さいが、思い出が詰まってるんじゃよ……」
老人は説明を続ける。
「儂が父からこの家を受け継いだ時、この湖の畔には集落は無かった。しかし、南から新たな地を目指して来た集団が住み着き、今に至るのだよ。ただ、このような住居を作る技術力は無かった……だから集落の皆はその場に穴を掘り、藁等で屋根を作り雨風を凌いでいるのだよ。儂は此処でずっと暮らしているがな」
ほっほっほ、と童話に出てくる老人のように笑う。
すると急に胸を押さえて苦しそうに咳き込む。
「ごほっごほっ……うぅ……すまんのぅ……」
「……何処か悪いんですか?」
老人は苦しそうに答える。
「うむ……少し前からな……この役目も、もう……」
老人は何処か遠い目をしていた。
役目、と言って居たのも気になるが、そこには触れ無い。
本来であれば、彼に同情し、何か助けられることはないか聞くべきなのだろう。
しかし、自分にも役目があった。
「いきなりですみませんが……」
「ん? なんだね?」
リュックから一枚の黒い板を取り出す。
「これをご存知無いですか?」
「それは……」
それはボロボロで決して綺麗な物とは言えなかったが、長い間使われていた物だと言うのは分かる代物だった。
自分は彼にこの小屋で暮らしている事、老人であることなどの要素から彼が目的の物を持っている、若しくは何かヒントを握っている可能性にかけた。
「……何処かで見た気もするが……すまんのぅ……何せ歳を取ると物忘れがな……」
「……いえ、ありがとうございます」
彼が何のヒントも持っていないという情報を得ることは出来た。
無論、嘘をついている可能性もあるが、嘘を付くということは簡単には明かしてくれない。
今回の旅はそれくらいの収穫であったということである。
「あ、そうだ」
そこで、何故彼が目的のヒントを握っていると感じたかの要素の一つを思い出した。
「道中、あなたが神様だと言う話を聞きました。湖の水量を自在に操れるとか……本当なんですか?」
この話の推測は出来ている。
もし仮にそうならば、もう一つの目的を果たさねばならない。
しかし、住民が勝手にそう思い込んでいるだけという説もあるので、確かめる。
「ん? あぁ……水の神とか言われてるあれか……」
老人は再度こちらの装いを確認する。
「……ただの偶然、だよ」
「……そうですか……」
何か隠している。
それは一瞬で分かった。
しかし、隠すからには理由がある。
問い詰めた所でその秘密は明かさないだろう。
「……では失礼します」
頭を下げ、その場を後にしようとした。
強硬手段で行っても良かったが、抵抗されれば負けるかもしれない。
ここで旅が終わるかもしれない。
それは一番望まぬ展開である。
小屋を出ようとした、その瞬間。
「ノッケン様! 大変だ!」
一人の男が小屋に駆け込んでくる。
「ど、どうしたのかね? 落ち着いて話しなさい」
ノッケンは慌てている男を落ち着かせ、話を聞く。
それらのやり取りから、ノッケンが慕われているのは理解出来た。
「む、向こう岸で暮らしてる……さっき狩りに行ってた奴らが大怪我して帰ってきたんだ! 向こう岸の医者に見せなきゃ死んじまう!」
「……船は出せないのですか?」
部外者であったが、ふと口を挟む。
それは、その狩りに行ってた奴らというのは、ここを教えてくれた人達であると推測したからである。
恩は返したい。
「少し前の大雨で湖が増水してて、風も強くて船を出すのは危険なんだ! せめて水量がもっとすくなければ……ノッケン様! 頼んます! どうか湖の水を……」
ノッケンの顔を見る。
その表情は、非常に気まずそうな顔をしていた。
彼は優しい。
もし本当に水量を変えられるのならば、やらざるを得ないだろう。
(さぁて……どう出るのかな?)
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