3.報告とお叱り
「それでまた、なーんの考えもなく引き受けちゃったんスね、師匠?」
「ボス、あんたの言動には、われわれ皆の明日がかかっている。くれぐれも忘れないでほしい」
「まったくです。返す言葉もございません……」
事務所と社宅を兼ねた家のリビング、四人で囲む夕食のテーブルにて。昼間の出来事に対し、冷ややかなコメントを寄せた社員ふたりを前に、社長である柴本は三角耳を力なくぺたんと寝かせた。
長身で筋骨たくましいふたりによって、小柄な柴本が詰められる様子は、まるで逆パワハラのような構図だ。が、この場合、そんなことは多分ない。
わたしも呆れて何も言えない。ご馳走が台無しだ。
『どんなことでも応相談』をモットーに、社長で
今いる社員は、現場担当のブッチー、ウタさんと、事務員であるわたし
さて、今日の夕食は
テキにカツ。だが肝心の敵が分からんでは話にならん。
あとはねぎと豆腐の味噌汁、もやし炒め、ヨーグルトのフルーツサラダ。いささか組み合わせがおかしい。
見ているだけで胃もたれするようなメニューが、柴本の胃の中にスルスルと収まってゆく。防衛隊時代に培った早飯の大食らい。162センチの背丈にしては多めの体重七八キロ。骨も筋肉もしっかり詰まったプロレスラーか柔道家のような体格だ。
「っはー! ……はぁ……」
発泡酒を呷ってから、またため息。彼の肝臓さんは今日も休日出勤だ。どうやら今回の重圧はアルコールでも隠せないらしい。が、それでも食べっぷりには変化なし。
「へへっ、ちょっと奮発しすぎちゃったぜ」
「味がよく分かんないのが残念ッスね」
「ああ、まったくだ」
本当にね。わたしもふたりに相槌を打つ。社長のおごりで豪華な肉となれば嬉しい筈だけれど、胃にずしりと来る感じは脂のせいではなさそうだ。経費で落ちないからね?
「しっかり食えよ。いざって時に生き残れねぇぜ?」
自信に満ちた顔。もと防衛隊員の言葉は説得力がある。
「そうそう。さっきの話に戻るけどよ」
「どのへんッスか?」
「商店街の連中に怪しい薬が
「そうじゃなくってさー」
オホンと咳払いをし、すっと背筋を伸ばす柴本。一緒に暮らし始めて2年、そして会社を立ち上げ社員たちとの共同生活を始めてからだいたい4ヶ月。こうやって居住まいを正すのは、ロクでもない話が待っているときだ。もう皆にバレている。
「頼む! なんかいいアイデアおくれ!」
やっぱりねー……。
一口大に切ったステーキにガーリックのソースを絡めてから口に放り込む。ため息と一緒に飲み込んだ。
「で、依頼人は誰なんスか?」
「商店街まるごと一つ面倒を見るなんて言わないよな? ……そうなのか⁉」
「
携帯端末の画面をこっちに見せて自慢げな表情。わたしとブッチー、ウタさんは顔を見合わせた。額だけ見れば、数ヶ月ぶんの稼ぎにも相当する。
「これだけの額を見せられちゃ、引き受けねぇ訳にいかねぇだろ⁉」
「それが出来るのならば、な」
「そうッスね」
まったく。カレーとご飯を口に運びながらうなずく。
報酬として示されたのは、普段受けている依頼からすれば破格とも言える額。けれども、商店街ひとつぶんの面倒を見ることを考えれば、まぁ安い。また騙されたね?
「成功報酬も考えてるってさ」
「そこまで出来るッスかね?」
「理屈の上では可能というやつだろう」
目先の金に釣られおって。がめつ
「それでさ、みんな何か良い案とか持ってねぇかな?」
首を横に振るウタさんとブッチー。当然だ。
「那由多は?」
視線がわたしに集まる。ため息しか出ない。
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