第5話 美少年執事に鉄槌を

私を舐めきっているロデリックに、鉄槌をくださなければならない。


私は復讐プランを検討していた。


最初はロデリックのことを、顔の良い美少年がきた!とテンションを上げていた私も、今ではそれも小憎たらしい顔にしか見えない。


しかし、今の私は味方が少なく、敵が多い。

お母様は不倶戴天の敵であり、ロデリックは憎たらしい敵であり、今ではメイドたちも敵である。


しばらく考えたのち、素晴らしい案がひらめいた。


私に残された勢力は、お祖父様と道場の門下生たちだ。


特に道場は、数年前から門下生たちのアイドルやってるマルティナちゃんのテリトリーだ。

木の枝を振り回していたころから、彼らは私の味方である。


そんな彼らにお願いすれば、具体的には「ねぇ~私ぃ~、私のことを猿呼ばわりしたあのクソガキを闇討ちしたい(早口)」と言えば、彼らはマルティナちゃんのお願いを聞き届けてくれるはずだ。



暴力こそがこの世でもっとも尊く、恐ろしいものだと、あの小憎たらしいロデリックに思い知らせてやるのだ!



善は急げ。


私はメイドたちによってめちゃくちゃキレイに整頓された部屋を飛び出した。




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道場についた私は、さっそく門下生の一人を捕まえ、やみうt...正義執行活動の提案をした。


「いやー、さすがにお嬢様の頼みでもそれはちょっと...無理ですねぇ」


「なんでよ!」


「まぁメスマール家を直接罵倒したのは問題かもしれないんですが...」


そこで私は、衝撃の事実を知らされた。



門下生たちにとって、主な交際相手は館のメイドたちである。


つまり、門下生たちはメイドたちの機嫌を損ねるようなことはなるべくしたくない。


そして、最近きた黒髪黒目の美少年執事は、メイドたちの間で大人気らしい。

...あの腹黒が人気とかあいつら全員見る目がない。


そんなメイドたちの人気を一身に集めるロデリックに危害を加えたと知れたら、その門下生は道場で居場所がなくなるだろう。


なので、猿発言は通常であれば許されないと思うが、相手が悪すぎるので門下生たちは手助けできない、そうだ。



なんということだ。

あのロデリックは、メイドたちを通して凄腕の剣士である門下生たちをもコントロール下に置いたらしい。


やばすぎる。



かくなる上は、最終手段だ。


メスマール家の当主であり、メスマール領の領主である、お祖父様を頼ろう。


権力こそがこの世でもっとも尊く、恐ろしいものだと、あの小憎たらしいロデリックに思い知らせてやるのだ!




--- ---




「お祖父じい様、お祖父じい様、お話がっ」


私は祖父の書斎のドアを、ノックもせず開いた。

孫に激甘の祖父はこんなことで怒ったりしないのだ。


「...そうか、よく話してくれた」


「いえ、外からきた人間しか見えぬ、言えぬこともあるのです」


書斎の中には祖父と...なんとあの憎たらしいロデリックがいた。


え、なんでこの組み合わせ?


祖父は乱入した私に一瞥をくれただけで、すぐにロデリックで視線を戻した。


「少し奔放に育てすぎたな。

 剣に生きる門下生たちにも好かれていて、《剣豪》ベアトリスからの評価も悪くなかったのだが」


「それが悪い方に働いたのでしょう。彼女は剣さえ振れればそれで良いと思っているフシがあります。力を求められる時代なのは我が身をもって理解していますが、上に立つ人間に求められるのは力に限らないかと」


「ふん、貴様の言う通りだな」


「実際メイドたちからは、自制が難しい年齢の剣士が恐ろしい、という話も聞いています。我々は忘れがちですが、一般人からすれば剣士というだけで警戒の対象なのです」


「今のままでは猛獣の世話と変わらん訳か、道理だな。あのベアトリスが、幼い頃から身の回りの世話を自分でやっていたのも、今更ながら得心がいった」


祖父はため息をついた。




2人は何か難しい話をしているようだ。

猛獣の世話とか聞こえたし、ペットでも飼うのかな?




「マルティナよ」


「はいお祖父じい様!」


「しばらく剣は禁止だ」


「ほえっ!?」


え、なんで? どうして?


剣がなければいざというとき、このロデリックを闇討ちできないではないか。


「お前が2年前より自ら門下生たちに混じり、剣の腕を磨いてきたのは誰もが知るところだ。それ自体は誇りに思っていい」


「ならお祖父様!」


「しかし剣の腕以外のものが足りていないようだな、マルティナ。礼儀作法もそろそろ身につける頃合いだろう。せめて領主の私室に入るときは、ノックぐらいはするものだ」


え!? あの甘々のお祖父様がめちゃくちゃ厳しいことを言ってくるんだけど!?


私は思わずロデリックの方を見た。


こいつか!こいつが入れ知恵したのか!


「お嬢様。失礼ですがメスマール家のご令嬢として、品性を身につける頃合いです」


そう言ったロデリックの顔は.....口の端がつり上がった笑みをしていた。



「おっおっおっおおおおおまえ!!!」


「言葉遣いがなっていないぞマルティナ。領主の前だ」


「お祖父様!」


「そこのロデリックは帝都でもやっていける程度に礼儀作法を身に着けている。マルティナよ、当分の間、この男に師事して礼儀作法を身に着けなさい」


な、なんということだ。


この憎たらしいロデリックとかいう男、ついに館の最高権力者にまで取り入ってしまった。


顔か、この顔に皆ほだされてしまうのか。


「この◯◯◯◯!!!◯◯◯の◯◯◯!!!!◯◯◯◯◯!!!!!(聞くに耐えない罵倒)」


「マルティナ、そういうところだぞ。言葉の中身は置いておいても、感情に任せた言葉は慎むべきだ」


「お、お祖父様!!」


「自らを律することができない人間は剣を持つべきではない。剣は私が預かろう、渡しなさい」


領主の言葉とあっては、剣を渡さざるを得ない。

私はしぶしぶ祖父へ剣を差し出した。


とても整った美しい顔で、ロデリックは囁くように口を開いた。


「ではお嬢様、行きましょうか。礼儀と品性を学ぶお時間です」




--- ---




それ以来、ロデリックに礼儀作法を叩き込まれる毎日が始まった。


「お嬢様、廊下を走るのはやめましょう」


「お嬢様、芋を咥えながら歩くのはやめましょう」


「お嬢様、もっと丁寧な言葉づかいを」


「お嬢様、―――――――――」



剣を封じられ、暴力による抵抗ができなくなったことで、私は私生活のすべてをロデリックに管理されることになった。


メイドたちも、門下生たちも、厳しく指導される私を微笑ましい目で眺めている。


以前はこっそりおやつをもらって食べていたが、それもロデリックの監視により出来なくなっていた。

厳しい生活指導に加え、あらゆる娯楽がカットされた私はストレスで発狂手前だ。


あかん、このままでは私が私ではなくなってしまう。

どうにかして、このロデリックを排除するのだ。


今日も地獄のレッスンを終えた私は、ロデリックから素早く距離を取り、地面から自室のある二階へ飛び上がった。


「お嬢様、部屋の窓から出入りするのは止めましょう」


うるせぇ!

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