2章2の3
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
四人の男女が僕の近くでかぎ型に座っている。
すぐ左手にはヒメ。その隣にはオレンジ色の服を着たガタイのいい男。これは今日初めて見る顔だ。その先には、
すると、今僕の目の前にいるオレンジの服を着たガタイのいい男はヒメの兄ということになる。父親にしては若すぎる。
そうか。今日の昼前にどこかでガヤガヤしていたのはこの男がこの屋敷に来たためだったのか。
ヒメたちは熱心に何か話をしている。当然のことだけれど、僕には何を話しているのかわからない。
しばらくすると、ガタイのいい男から、セイ、と呼ばれた。
男が僕の目をじっと
ここは大事と直感が訴える。僕もまっすぐに男の目を見返した。
時が止まったと感じるほど長い時間がたったように思う。男が、にっ、と笑った。
男が僕から視線を外しヒメに向かって何か話すと、ヒメは大きな声を出して喜んだ。ヒメは僕に何か話しかけてくる。その声は喜びを帯びていた。
やはり僕はこの男に試されていたようだ。どうやら合格したのだろう。
僕への審査は終わったようで四人は談笑を始めた。ここで僕は一つのことに気づいた。僕がこの国に来てから家族というものを始めて意識したということだ。もと居た屋敷は髪を
だから目の前の四人の談笑は少し僕を寂しくさせた。
僕には両親と兄、姉、弟がいる。祖父母は十三年前の疫病の
とはいえ、悪いことだけではない。家族には王府から給付金が毎月出るのできょうだいは学校に通えた。これは破格の待遇だ。きょうだい四人とも筆記という特殊スキルを持つなど貴族や大きな商家のようだ。そのスキルを
父の酒の量は増えていないだろうか。
母は指先、足先が冷えて苦労していないだろうか。
兄は気難しい上司にまた無理難題を押し付けられて愚痴を言っていないだろうか。
姉は新しい商家の生活に慣れただろうか。
弟はしっかり者を気取っているから心配をすると怒られるのだけれど、また憎まれ口を聞きたい。
会いたい……。
王国にいるときには思わなかったけれど、今は強く感じる。
自分でもこのような感情が湧くことに驚いている。遠く離れてしまったからなのか、ひどい怪我を負って心も弱くなってしまったのか。考えてもわからない。ただただ思う。
帰りたい。みなに会いたい……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます