2章2の3

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 四人の男女が僕の近くでかぎ型に座っている。


 すぐ左手にはヒメ。その隣にはオレンジ色の服を着たガタイのいい男。これは今日初めて見る顔だ。その先には、白髪しらが交じりと黒髪を後ろで束ねた二人の女性。どちらも僕がこの屋敷に来た日に僕を見に来ていた。上等な服を着ていて、どことなくヒメに雰囲気が似ている。母親と祖母だと僕は予想していた。

 すると、今僕の目の前にいるオレンジの服を着たガタイのいい男はヒメの兄ということになる。父親にしては若すぎる。


 そうか。今日の昼前にどこかでガヤガヤしていたのはこの男がこの屋敷に来たためだったのか。


 ヒメたちは熱心に何か話をしている。当然のことだけれど、僕には何を話しているのかわからない。


 しばらくすると、ガタイのいい男から、セイ、と呼ばれた。

 男が僕の目をじっと見据みすえる。


 ここは大事と直感が訴える。僕もまっすぐに男の目を見返した。


 時が止まったと感じるほど長い時間がたったように思う。男が、にっ、と笑った。

 男が僕から視線を外しヒメに向かって何か話すと、ヒメは大きな声を出して喜んだ。ヒメは僕に何か話しかけてくる。その声は喜びを帯びていた。


 やはり僕はこの男に試されていたようだ。どうやら合格したのだろう。


 僕への審査は終わったようで四人は談笑を始めた。ここで僕は一つのことに気づいた。僕がこの国に来てから家族というものを始めて意識したということだ。もと居た屋敷は髪をった男ばかりで何かの施設のようにも思え、とても家族のようではなかった。


 だから目の前の四人の談笑は少し僕を寂しくさせた。


 僕には両親と兄、姉、弟がいる。祖父母は十三年前の疫病の大流行だいりゅうこうでみな亡くなったと聞く。僕が魔法適性ありと認められた時に、家族は故郷の村から王都に移り住んだ。王府からの命令である。その意味は、魔法使いの僕が万が一にも裏切らないように体のいい人質である。


 とはいえ、悪いことだけではない。家族には王府から給付金が毎月出るのできょうだいは学校に通えた。これは破格の待遇だ。きょうだい四人とも筆記という特殊スキルを持つなど貴族や大きな商家のようだ。そのスキルをかし、兄は王都東地区の書記に、姉はそこそこの商家に嫁いだ。弟は学問の才が認められ、今は上級学校にいるはずだ。


 父の酒の量は増えていないだろうか。

 母は指先、足先が冷えて苦労していないだろうか。

 兄は気難しい上司にまた無理難題を押し付けられて愚痴を言っていないだろうか。

 姉は新しい商家の生活に慣れただろうか。

 弟はしっかり者を気取っているから心配をすると怒られるのだけれど、また憎まれ口を聞きたい。


 会いたい……。


 王国にいるときには思わなかったけれど、今は強く感じる。

 自分でもこのような感情が湧くことに驚いている。遠く離れてしまったからなのか、ひどい怪我を負って心も弱くなってしまったのか。考えてもわからない。ただただ思う。


 帰りたい。みなに会いたい……。


  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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