1章3の4
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
遅い……。まだ、師が来ない。
確かに夜半とそもそも晩い時間を指定されていたが、もうすでに
「姫さま、今日はもういらっしゃらないようですから、お休みになられたらいかがでしょう」
お
「そうねぇ、うーん、もう少し待つことにするわ。師がいらっしゃるのに初めて会う弟子が寝て待っていたとなっては末代までの恥だわ。師も
十一月も下旬となるといくら温かい
「わかりました、姫さま。もう少し待ちましょう」
「お
懸命に眠気と戦うお
「いえ、お供します」
お
それから
お
――眠ってはダメよ。
必死に睡魔に
――せっかく待ち望んだ師を得る機会なのだから。
気持ちとは裏腹に眠気は強まるばかりである。
――
そう、心の中で叫びながらも、
すでに
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
誰かに、ペシッ、ペシッとおでこを
――きっとお
また、ペシッ、ペシッとおでこを
――あれ? わたし、起きないといけない理由があった……。えーと、あっ!
あたりはもう明るくなっている。
いや、昨日までいた部屋ではない。前も後ろも右も左も上も下も、何もない空間が続いている。
「やっと起きたか」
白い蛇がしゃべっている。
「飛びのくとは失礼な」
そう言った
「へ、へ、蛇がしゃべった!?」
「ほう、姫には我が蛇に見えるか」
「そうか、ここは
この
「あのう、ここはどこなのでしょうか」
「夢の中だな」
さも当然のように
夢の中……。薄々そうだとは思っていた。自分の理解が当たっていて
「では
そう言って
「否、我は姫によって作られたものではない」
「ではあなたは
「我は我だ。それ以上でもそれ以下でもない。そもそもこの夢の空間も姫ではなく我が作っている」
「えっ、そうなのですか。何のために?」
「今日の夜半に行くと
「ええ! ではあなたが
「そうだな。なのになかなか寝ないので随分待たされてしまった。終いには睡魔の術を使ったが頑強に抵抗して手こずった」
ある時間から急に睡魔に襲われたのはそのためだったのか。あれほど
「あのう……」
「なんだ?」
「ではあなたがあの
「そうだ。
「どうして、わたくしに下されたのでしょうか?」
「半分は偶然」
「ではもう半分は?」
「姫は兵法書が何のためにあると心得る?」
「
「うむ。正しいが正しくもない。兵法書は皆、戦いをしないため、戦いを終わらせるために記されたものだ」
「はい」
「しかしな、記された目的とは逆さまに
「兵法書はない方がよいのでしょうか」
「いや。兵法書を
「では、兵法書のある意味は何なのでしょうか」
「
「わたくしの目指したいところです」
「うむ。我は我が
「はい」
「だが、ゆめゆめ忘れるな。兵法書は人を
「わたくし、
二人の間に緊張が走る。
「引き受けた」
「ところで、わたくしはあなたさまを何とお呼びすればよいでしょうか。お名前を教えていただけましょうか」
「我のことは師匠と呼べばよい。名はそのうち分かるであろう」
「かしこまりました。お師匠」
するとお師匠と
「な、な、なんですか!?」
「まぁ、待っておれ」
お師匠はあくまで悠然だ。その態度からお師匠が何かしたのだと
しばらくすると揺らめきは形を現し、
「これは現実のものをこの夢の中に写したものだ。どれ、少しは読んだか」
「はい、少しだけですが」
「では、そこから軽く先を読んでみようか」
本当に軽く読むだけで、お師匠は特別口を挟まない。まずはおおよそ何が書かれているか
「今日はここまでの様だ」
「えっ」
「では、また明日の夢の中で」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「姫さま、姫さま、起きて下さいまし」
体をゆすられて
明るい。障子から優しい陽光が目にまぶしい。もと居た
「起きました? もう
「本当……だったのね」
「姫さま、どうなされたのです?」
「いえ、何でもないわ、お
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
これより後、
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