1章3の1
3
十一月二十一日。
「
部屋は十畳ほど板張り。障子から射す光で明るい。奥の棚には大量の本や巻物が積まれ、部屋の主人が持つ教養の高さを物語る。一輪
畳が二畳、対面する形で置かれている。その片方に
この
「朝から呼び出してすまぬの、ささ、座っておくれ」
促されて
「姫、セイの様子はどうじゃ?」
おもむろに
「
「食は良くともまだ起きれぬか。して
「
「ふむ、他には何か申しておったか?」
「はい。それでもあと十日もすれば体を起こせるようにはなるだろう、とも言っていました」
「なるほどの。姫は休めておるかの? もし人がいるのならば今からでも寺の者を使うてもよいぞ」
「ありがとうございます。セイはずっと微熱こそありますが
「ほう、空き時間とな。姫はどうしておるのじゃ?」
「前回の講義で習った所を読み直したり、考えをまとめて紙に書き付けたりしております」
「前回は
「はい」
「書き付けは今持っておるか?」
「はい、ここに」
機会があれば
「ふむ。よく書けておる。日々、古典漢文の修練に励んでおるようじゃの」
「ありがとうございます」
「されども、教えるべき所は教え終わってしもうた。姫は
「わたくしはまだ学びとうございます」
「姫はここに通うようになってどのくらい経つ?」
「もうすぐ二年になります」
一通りの学問を習得した後、さらなる知識を求めて
「もうそんなになるかの。そうか。ところで姫は兵法書も学びたいと申しておったの」
「はい、
ここで一つ、
「教えたいのは山々だがの、前にも申した通り、
「そう……でございますか」
「誰か紹介できれば良いのじゃがのう。それにしても姫の向学は感心じゃの」
「初めて申し上げますがわたくしは軍師になりたいのです」
「ふむ。
「いえ、
「大きく出たのぉ」
「はい。ですがわたくしの憧れは
「ほう。
「
「鎌倉の尼
「そうじゃのう」
鎌倉の尼
「
「ふむ、人の資質はある時には良き面に、ある時には悪しき面として現れよう。決して硬直したものではないのう」
「はい。常に内面を磨き、自分の資質が良き面として表に出るように精進いたします」
この時、
「姫よ、それでは足りぬの。姫は人の上に立つことを志しておる。故に、周りの者の資質を上手に使いそれが良き面として出るように助力せねばならぬ」
つい先ほど口に出した目標に適う心構えがまだ出来ていないと言われたも同然なのだ。何の言い訳もできない。
「仰る通りで恥じ入るばかりでございます。未熟なわたくしには師が必要です」
「そう自分を卑下なさるな。人はそうして学ぶものじゃ。しかしの。姫とこうして語るのも月に一度。これではむざむざ姫の才覚を腐らせてしまう。師については考えよう」
「お願い申し上げます」
「でな、今日、呼んだのは
「
「その通りじゃ。顔を売ってくるのも良かろう」
「はい、お供したいと思います」
ふむ、と
「そうじゃ、
「
「ふむ、見せていただけるとありがたいのう。しかしあれは
「承知いたしました。努力いたします」
「では。
断られる心配もなくはない。しかし、この時、
道が開ける。いや、目標に向かって伸びる無数の道から進むべき道が光り輝いて
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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