1章2の3
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
明くる十一月十三日の
本堂より離れへ渡る廊下を
世話になっている
昨日は
いまだ少年は目覚めない。
それでも
本当を言うと少し怖い。この確信も何か大きな力によって動かされているように感じる。
確信と不安。
少年の寝る部屋の
むしろを二枚重ね、その上に古着を敷いて敷物とし、上には古着を何枚もかけている。
静かに少年の枕元に近づき腰を下ろした。顔を
「わぁ、気付いたのね」
よかった。本当によかった。これで少年は
先ほどまであった不安な気持ちは霧が晴れるように消え去った。
少年の唇がかすかに動いたのを
それもそうだろう。少なくとも丸二日は水を飲んでいたのだから。
「ちょっと待っていてね。すぐに戻るから」
寺の台所に走って向かう。
台所ではお
少年に
包帯で表情はわからないが、とても
水差しの
「お
「五合は入っていたと思います。すごいですね。全て飲み干してしまうなんて」
「ええ、あまりに
「
「そうね。ではこれで終わりにしましょう」
お
「と、いうわけだから今はお終いね」
「********」
少年の発した言葉は聞いたこともない。思わず
「困ったわね。
「姫様、近ごろ聞くようになった南蛮人かもしれません」
「そうね。言葉が通じないのは参ったわね。何があったのか聞き出せないわ」
「はい、このような
「ええ、早く何とかしたいわね。けど、今は彼に回復してもらうのが先ね」
「はい、そうでございます」
「では、お
お
「ここは安全、大丈夫よ。あなたは
少年に言葉が通じる訳ではない。けれども思いは通じるはずだ。
静かに少年が
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
さらに一昼夜が過ぎた。少年は、昨日の夕方には
今朝も
部屋には、
念のため、まずは
次に漢文で試す。が、これもダメであった。
「姫様、弱りましたね」
困ったようにお
ええ、と
少年がゆっくりと文字らしきものを書き始めた。しかし、見たこともない文字である。
「
この四人の中では最も外国の文字の知識があるのは
「
「やはり南蛮の者でしょうか」
「姫様、それもわかりませぬ。力になれず申し訳ない」
「そうですか。
皆が
沈黙と重い空気があたりを漂う。
そこを破ったのは
「あのー、この少年の名前は聞き出せないでやすか? 少年だと呼びにくいでやす」
皆の視線が
「そうね。そうよね。
少年の視線が
最初、少年は答えなかった。三巡目をした時、ポツリと答えた。
「セイ」
「セイ、あなた、セイって言うのね」
皆も一様に表情がほころんだ。
「お
「はい、姫さま。わたくしにも聞こえました。わたくしもうれしゅうございます」
「
「姫様、あっしは思いつくまま言っただけでやす」
「
「姫様、礼には及びませぬ。名前が分かったことは大きな前進ですな。それよりこれからどうなさる? 言葉が分からねば自立は難しかろう。
「そうね。セイが馬に乗れるまでの間、この離れをお借りできますか」
「それは構いませぬが」
「馬に乗れるようになり
「承知致した。セイは善き人に拾われたな」
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