1章1の2
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
この道はあまり人気がないが、峠を越えた先には
そうであるので、本来であれば
戦国の世にあっても、今日の
お家騒動であるから領民にひどい仕打ちをするわけもなく、長く続く平和はどことなくのんびりとした
「姫様、あっしは少し先に行きやす」
いくら安心であるとはいえ、峠のような場所は用心に越したことはない。先に不審な者がいないか確かめるのである。
「ええ、頼むわね、
へい、と言うとささと走り出す。あっという間に道の曲がり角に行き着き、大きく手を振って安全だと知らせてきた。
「あれで、
「ふふ、そうでございますね。
その時、一陣の風が吹いて草木を揺らした。
「大丈夫よ、お
はい、と答えたが、まだ、力は抜けていないようだ。お
草木のかすれる音。
曲がり角を曲がると、次の曲がり角の前に
左右からせり出す木々でぼんやりと暗い山道が続く。
もう
空は左右の木々で狭く切り取られている。その隙間から旋回しているカラスの姿が視界に入る。
ガァー、と不吉で
その時、
カラスの旋回しているその真下あたりに、よくよく目を凝らす。
「姫さま、どうかなさいましたか」
お
「何かいるわ。右、奥、枯草の塊りのその向こうよ」
「どこです? 姫さま、見えません」
お
「
言われた方を見上げたが、今度は顔を左右に振るだけだった。
おそらく馬上からでないと手前の枯草に邪魔されて見えないのであろう。
神経を澄ましてじっと見つめる。
――人だ!
ピクリともしない。しかもひどい
「仏さん……だわ。
「や、野盗でやすか!?」
脇差を腰から
「落ち着いて、
「仏さんというと、死体でやすか?」
「そうよ。近くには誰もいないと思うわ」
それを聞くと、
「さようで。いやはや、肝を潰しやした」
「では行くわよ」
へいっ、と額に浮かんだ汗を袖で拭きながら
「
「そうでやすねぇ、近くのお寺さんに連絡して仏さんを引き取って
「そうね。わたしもそれがいいと思うわ」
一行はもと来た道を戻り、死体を見つけたとことまで来た。
「あそこよ、
「しかたないわね」
そう
「姫さま、危のうございます」
お
「大丈夫よ。武家の娘ですから。ほら、
へいっ、と言って
斜面を二
顔や頭、腕は焼けただれ、服も焼けてボロボロだ。
「ほう、これはひどい
えぇ、と答えようとしたその時、死体だと思っていた者から、ぐぅ、とうめき声が漏れた。
かすかな息の音。近づかなかったら草木のかすれる音で聞き逃すところだった。
「まだ生きているわ!」
「本当でやすか。これで生きている。驚きでやす」
「えぇ、
「へいっ、そうしやしょう」
「
「
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