第2話
―—セレスの記憶――
「お姉様の好きな人、私がもらってあげることにしました。なにも文句なんてないですよね?」
「別に、好きにしたら?」
私とセレスの関係は、幼い頃から今に至るまで全く変わっていない。
彼女は私のものを何でも奪って行くことを生きがいにしているようで、時にものであり、時に人であり、時に愛情を私から奪って行った。
「そういえば、どうしてお姉様はお父様やお母様とあまりお話をされないのですか?せっかく一緒に暮らしているのですから、もっともっと仲良くした方が良いと思いますよ?」
嫌味たらしい口調でそう言葉を告げてくるエメリア。
そうはさせないと毎日のように動いているのは、他でもないあなた自身でしょうに。
「ああ、でもそれも無理かぁ。だってお父様、お姉様の事はもう嫌いだって言っておられましたし、お母様もお姉様なんて生まなければよかったと言っておられましたし。私は2人と本当に仲良くやれているから、何をしたらそこまで嫌われるのか全く分からないですけれど♪」
その原因を作った張本人が、心から愉快そうな表情を浮かべながらそう言う。
彼女は昔からこうなのだ。
私に関するありもしない話を毎日のように周囲の人たちに吹き込んで回って、私を孤立させて自分の仲間に引き込んでいく。
最初こそそれと戦っていた私だったけれど、毎日のように嘘を垂れながすエメリアを前にしてもう相手をするのが付かれてしまい、途中から否定することをやめてしまった。
その結果、私が強く否定をしないからエメリアの言っていることが正しいのだという流れになっていき、彼女が計画した通りに私はだんだんと一人ぼっちになっていった。
「ねぇお姉様、家族と言うのは同じ時を過ごすもの同士なのですから、仲良くしないとだめですよ?それができないというのなら、雰囲気を悪くするだけですから出て行った方が良いと思うのですけれど?」
あなたがこの雰囲気を作り出しているというのに、その責任を私に取れと言ってくる。
こんな言葉が毎日のように続いてくのだから、私も相手をするのに疲れてしまったのだ…。
「こんな言い方はあれですけど、私には全く分からないんですよね。だって、お姉様のせいで私たち家族の雰囲気は少し悪くなっているんですよ?それなのに全くそれを意識することもなく我が物顔でこの家に居座り続けているだなんて、ちょっと私にはまねができないですね。お姉様って、どこまで図々しい性格なんでしょう?」
私が反論をしないのを良いことに、一方的な言葉を吐き捨て続けるエメリア。
家族との関係をやり直すことなどもう私の心の中では全く考えていない事であるので、そこに対して反論する気にもなれないのだ。
家族と関係を戻したいという思いがまだあったら、エメリアの言葉を否定しに行くのかもしれないけど、私にはもうそんな気持ちは失われてしまった。
…家族から愛情をかけられないのが、当たり前になってしまったから。
「とまぁそんなことを言いましたけど、私はお姉様にいなくなられたら困りますよ?これでもお姉様とは仲良くやれているつもりですので、これからも私の遊び相手になって頂きたいと思っています。これは本当ですよ?」
どうしてここでエメリアがそんなことを言ってくるのか、それももう全部私には分かっている。
逆張りをすることで、私の事を追い出したいと思っているのだろう。
この言葉をかけ続けると、いずれ私はこの場から逃げ出したくなり、その責任もすべて私のせいにすることが出来る。
彼女の中では、たとえ私に何が起ころうともすべては私の自業自得だという片付け方をするのでしょうね。
「あーあ、お父様がこの間連れて行ってくださったお城、すっごくきれいだったわ。もう一回行きたいけれど、その時はまた家族3人だけでいくのかしら。ねぇお姉様、どう思われますか?」
「別に…」
「お姉様が一緒に行きたいのでしたら、私がお父様にお願いしてみてもいいですよ?」
「私はいい」
「強がらなくてもいいんですよ?本当は一緒に行きたいんでしょ?」
「別に」
「へぇ…。そこまで否定するという事は、やっぱりお姉様ってなにか後ろめたいことでもあるんですか?それを抱えているから、私たちと仲良くすることができないんですか?ならお姉様の事を誘わなかったお父様は正しかったという事になりますね。そしてこれから先もお姉様の事を誘う事なんて一度もないのでしょうね。ああ、可愛そうなお姉様♪」
「……」
口を開けば常に私に対する嫌味しか出てこないエメリア。
彼女の頭の中は結局、誰かを下げることで自分を持ち上げ、自尊心を保つことしかないのだと思う。
今までに彼女自身が損な役回りを自ら進んでやったことなんて、一度もないのだから。
「それじゃあお姉様には、これからも私の事を悲劇のヒロインにしていただくために頑張ってもらいますね。後の事はよろしくお願いします♪」
上機嫌な様子で私の前から去っていったエメリア。
侯爵様から私のもとに、食事会に招待するという招待状が届けられたのは、ちょうどこの時の事だった。
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