第3話
――ノアラ侯爵視点――
「はぁ…。エメリアはまだだろうか…。待ちきれないよ…」
僕はいつぶりかも分からない気持ちの高ぶりを自覚しながら、彼女の到着の時を待っている。
今日はセレスの事を婚約破棄してから最初にエメリアに会う日であり、僕は最近は今日のために貴族としてのしんどい仕事をこなせているといっても過言ではない。
「エメリアはどんな姿で僕の元に来てくれるのか…。一応約束は食事になっているけど、時間も時間だからこの屋敷に泊っていかせることは簡単だろう…そしたら…♪」
その先の事を想像するだけで、体が熱くなっていくのを止められない。
セレスと一緒だった時には全く感じれられなかったこの思いに、僕はただただうれしさを実感してた。
しかし同時に、僕はこの思いの正体というものもまたしっかり理解していた。
「(まぁ、分かってはいるとも。この思いのすべては、背徳感からくるもの…。セレスという将来を約束した婚約者を持っていながら、僕は貴族家の男として絶対に許されないことをやった…。これは周りに知られれば大問題になること間違いなしの者だが、だからこそ興奮してたまらない…。このスリルが心地いい…。僕はこの思いを真実の愛だとセレスに説明したが、別にそんな特別なものなどではない。これはただただ、浮気に魅力を感じる男女の物語なのだから…♪)」
浮気や不倫と言う言葉は、いつだって男女を興奮させるもの。
しかもそれが許されないタイミング、許されない相手ともなればなおさらの事である。
「僕は侯爵位の貴族であり、向こうは婚約者の実の妹…。完全に許されない関係であるが、だからこそ興奮せずにはいられない…。絶対に誰にもバレてはいけない関係だからこそ、ドキドキが止まらないんだ…」
さて、そんなことを考えていたらいよいよエメリアがここに到着する時間になりそうだ。
僕は部屋に備え付けられている鏡を見て、自分の姿を最終確認する。
エメリアの思いを冷めさせないために、まずは容姿からしっかりとこだわらなくてはね。
「よし、大丈夫だろう。これでエメリアを迎え入れる準備は万全」
そしてその後まもなく、エメリアを乗せた馬車が僕の屋敷の前に到着するのだった。
――――
「よく来てくれたねエメリア。僕は君に会えるこの日を思って、全く仕事が手に付かなかったよ」
「またまた、侯爵様はお上手ですね。私はそんな社交辞令でもうれしいですけれど♪」
「おっと、僕はそんなものは嫌いなんだ。本心から想ったことしか口にしない性格だよ?」
「まぁ♪」
先ほどまでの興奮をなんとか胸の中にとどめ、弾む思いを一旦押し殺す。
エメリアの前では優れた落ち着きのある侯爵様を演技しなければならないのだから、当然の事だ。
僕は彼女を自分の部屋の中まで招き入れると、早速例の話を告げることにした。
「エメリア、僕がどれほど君の事を想っているか、ここで伝えたいと思う」
「なんですか?」
「エメリア、僕は君との未来を歩むために、セレスの事を婚約破棄したよ」
「!!!!」
途端、エメリアが心の底からうれしそうな表情を浮かべる。
あぁ、僕はそれが見たくてこの決断を下したのだと、はっきりと分からされていく…。
「ありがとうございます侯爵様!!まぁ!どうしましょう!!私、こんなにうれしい事って今までありませんでした!!まさかそこまで侯爵様が私の事を想ってくださっていただなんて!!」
エメリアのこのリアクションは、決して準備されたものではないと思う。
なぜなら彼女はこんなにも純粋でかわいらしい表情を見せてくれているからだ。
これは完全に僕との思いが相思相愛であり、僕の言葉を心から喜んでくれているなによりの証拠。
エメリアの雰囲気に気持ちが一段と熱くなった僕は、さらに畳みかけに行く。
「エメリア、今日は朝まで一緒にいたい。僕と君にとって今日は特別な日だ。僕らを結び付けてくれたすべての人に、神に、感謝をしたい。そしてこのうれしさを、今日は君と一緒に感じていたいんだ」
それは僕の本心であり、同時に確信でもある。
僕たちは明らかなる相思相愛であり、結ばれるべくして結ばれた二人なのだ。
もちろん、そのきっかけがけがれたものであるという事は理解している。
だけれど、それを補ってもあまりあるほどに素敵な関係を手に入れることが出来たという自覚が僕にはあるのだ。
そしてそれは、エメリアも同じことを想ってくれているであろうという、確信。
「もちろんです侯爵様。私も今日と言う日を、特別な日として記憶していたいと思っています。お姉様の代わりに私が婚約することになるなんて、思ってもいませんでしたけれど♪」
「代わりなんかじゃない、僕は君だから愛せたんだよ。セレスとエメリアは全く異なる存在なんだ。僕にはただただ君が愛おしく思われて仕方がないんだよ」
「ありがとうございます侯爵様。私、しばらくは興奮をおさえられそうにありません…!」
「僕も一緒だとも。さあ、それじゃあ隣の部屋に…。お酒も準備してあるからね?」
その後僕たちが何をしたのかは、説明するまでもない。
ただただ幸福の時が流れていったのは間違いのない事実だ。
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