【3】「子どものままじゃいられない【音宮坂書架視点】」

 制服姿で収録スタジオに向かうのは何度、経験しても慣れない。

 それでも、大人の輪に加えてもらうために緊張ってものを笑顔の裏に隠しながら今日も挨拶を交わす。


「ふーみかっ」


 学校では決して見せることのない爽やかな笑顔を作り込んでいると、先輩声優が声をかけてきた。


「お疲れ様です、坂本さん」

波多江はたえ監督の作品、合格してんじゃん」

「週末、芸能人の皆さんに紛れて披露試写会行ってきます」


 先輩に、自分が緊張しているってことを悟られたくない。

 先輩は緊張を抱えている後輩を受け入れてくれる優しい人だけど、私だって声優として仕事をさせてもらっているからには大人の世界に染まりたい。


「声優で受かる人がいるんだなーって、先輩はとても落ち込んでる」

「絶対に受かりたかったので」

 

 瞳をきらりと光らせるなんて、言葉通りのことはできない。

 それでも、自分の瞳が輝いているってことを証明するかのように自信を持って声を発する。


「受かりたい作品に受かるって奇跡を、書架ふみかは起こしちゃうんだね」

「奇跡が日常に変われるように、今度も努力します」

「おっ、将来の有望株の誕生か~」


 作品を大切に想ってくれている人たちを、失望させるような芝居はできない。

 私は大人の世界に溶け込んでいると思いながら、今日も声の芝居の世界に打ち込む。

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