第5話 どうしてそんなに悔しがるんだよ
現在、俺たちは蕎麦屋に来て蕎麦を啜り、天ぷらを天つゆにつけて食べている。ここの蕎麦屋は自宅から徒歩で10分ほどのところにあり、幼い頃に家族で来店したことを憶えている。
「大ちゃんの隣で蕎麦を食べる幼馴染……もう私たち、周りからは新婚夫婦だと思われてるよ!」
「新婚夫婦に見えるわけないでしょ、貧乳。勘違いしているんじゃないわよ」
咲茉は蕎麦を啜りながら、ジト目で早紀のことを見ている。
「お兄ちゃんの隣は、私のはずなのに……!」
箸で持っている海老の天ぷらを、天つゆをべちゃべちゃつけながら悔しそうな表情を浮かべる優芽。
そう、俺の隣の席に誰が座るかで3人は揉めたのだ。
『大ちゃんの隣に座るのは、幼馴染である私が一番相応しいに決まってる!』
『全然相応しくないわ! 大輝の隣に座るのは、この私よ!』
『いいえ、お兄ちゃんの隣に座るのは妹であるこの私です!』
周りのお客さんに見られながら、こんな感じで揉めて……最終的には、じゃんけんで勝った人が俺の隣に座ることに決まった。
超恥ずかしかったよ……。店内で、本気でじゃんけんをしている3人を周りの客さんや店員が見ているんだから。俺は顔を真っ赤にしながら、3人がじゃんけんをしている姿を見て……ため息をついた。
それで、じゃんけんで勝った早紀が俺の隣に座る権利を手にしたのだ。その時も恥ずかしかったよ。だって、大声で「やった~!」って言うんだもん。周りの人は苦笑いをしていたよ。もちろん、俺も苦笑いをするしかなかった。
――んで、現在に至るといった感じだ。
俺はずっと恥ずかしい気持ちがありながら、蕎麦を啜っている。店員や周りのお客さんの顔なんて見れない。顔が合ったら、超気まづいし……!
俺は早くここから出たい……その一心であった。
「ねぇ、大ちゃん……私にこれを食べさせてぇ」
「これって……」
早紀がそう言って箸に持っていたのは、海老の天ぷらだった。
そんなことをして何が嬉しいのか、俺にはさっぱり分からないし……正直、そんなことをしたくないのだが……やらないと癇癪を起こしそうだし、仕方ない。
「分かったよ……」
「やったぁ!」
早紀は手に持っている箸を渡してきて、俺は渡された箸で海老の天ぷらを掴んだ。箸で掴んだ海老の天ぷらを早紀の口に近づけると……早紀は海老の天ぷらを食べるのではなく、フェラチオかのように吸ってきた。
何してんだ、早く食べろよ! と言いたいところだが……早紀が海老の天ぷらを吸っている姿はとてもエロくて、つい見惚れてしまった。
「何をしているのよ、貧乳!」
「そんなのずるすぎます!」
「そうよ、とってもずるいわ!」
「…………はい?」
何をしているのよ、貧乳! そんなことして恥ずかしいと思わないわけ!? って言うのかと思っていたけど……嫉妬するとは思わなかった!!
やっぱりコイツらは……頭がおかしすぎる。俺のことが好きすぎるがあまり、度を越えた行動や言動を普通にとってくる。いつからそんな風になっちまったんだよ……。
早紀は目を閉じながら、まだ海老の天ぷらを吸ってるし……。もう唾液で衣がしなってきてるけど……。てか、俺もいつまで見惚れているんだ!
「はい、おしまい!」
俺は早紀の口に海老の天ぷらを入れたまま、箸を置いた。
「んー、んー、んー、んー!(他にも食べさせてよぉ~!)」
「何言ってるか分からねぇよ」
「んー、んー、んー!(今度は大ちゃんのちんちんを吸ってあげる!)」
早紀が何を言っているのか分からないので、適当に返事を返す。
「はいはい、そうですか」
「んー、んー!(やってもいいんだ、やった~!)」
「さてと、食事を再開するか」
「「私にも食べさせて!!」」
そう言って、優芽と咲茉は箸を渡してくる……が、俺はそれを無視して蕎麦を啜る。
いや~、ここの蕎麦は本当に美味しいなぁ……。値段もリーズナブルだし、今度は一人で来ようかな。もう二度と、コイツらを連れて外食はしねぇ。
「美味いなぁ……」
早紀のことを悔しそうな表情で見ながら、同時に蕎麦を啜る優芽と咲茉なのであった。
俺はコイツらが何を考えているのか……さっぱり分からない。
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