第2話 どうしてそうなるんだよ
「どう? お兄ちゃん、美味しい?」
「ああ、美味しい」
現在、俺たちは椅子に座って優芽が作ってくれた朝食を食べている。メニューは白米に鮭の塩焼き、甘い卵焼きと豚汁だ。優芽の作る料理は美味しいからなぁ……14歳という若さでこんなにも美味しい料理が作れるのは素晴らしいと思う。
誇りに思うよ、我が妹よ……。
だけど、今はそんなことよりも解消しないといけない問題がある。
それは――。
「大ちゃんと結婚するのは私ですぅー! 幼稚園の頃にキスをした仲なんだから!」
「私だって、大輝とキスぐらいできるわよ!」
「キスぐらいできるってことは、まだキスしてないってことですよね~? 半年間も付き合っていてキスもしてないとか……プークスックスックスッ! マジ笑えるんですけど~!!!」
「そんなに笑っていられるのも今だけよ! 高校を卒業したら、私と大輝は結婚するんだから!」
「キスもしてない……いや、キスもできない人が何言ちゃってるの~? 大ちゃんと結婚するのはこの私だから!」
「お二人とも食事中ぐらい静かにできないんですか? お兄ちゃんと結婚するのは、この私です」
俺と結婚するのは私だと言い争いがまた始まる。
「というか、元カノさんはお兄ちゃんと結婚できないですよ。だって、もう関係は断っているわけなんですから……」
「そんなの関係ないわ! 大輝と私は結婚する運命だと、女神さまが夢の中で言ったのよ!!」
「「イカれてる……」」
それは二人の言葉に同感だ。
「てか、兄弟で結婚はできないんだから……優芽ちゃんはこの
「お兄ちゃんが死ぬまで、私はお兄ちゃんとラブラブな生活を送ります」
どうして俺が先に死ぬの確定みたいな言い方なの!?
そこは、『お兄ちゃんか私、どちらが先に死ぬのかは分からないけど……』みたいな感じで言ってほしかった!
俺は豚汁を飲みながら、3人の言い争いを聞き続ける。
「優芽ちゃんは離脱したし、元カノさんは頭がイカれてるだけだから……大ちゃんと結婚するのは、幼馴染の私ってことで決まりね!」
「離脱するなんて言ってないです!」
「頭がイカれてるって何よ! 幼馴染だか何だか知らないけど、私より胸が小さい……ていうか、よく見たら貧乳じゃない!」
「元カノさん……それを今、私も言おうとしていました。幼馴染さん、胸がペッタンコなんですよ。中学生の私よりも胸が小さいのはどうかと思いますけどね」
俺は別に貧乳でも気にしないが……早紀は弱点を突かれてしまったな。これはそうとう大きなダメージになりそうだ。
俺は卵焼きを食べながら、視線を移して早紀を見ると……顔を真っ赤にして、涙目になっていた。
「そ……そうよ。私は貧乳よ。だ……だから何よ! 別に貧乳でもいいじゃない! おっぱいが大きければ大きいほどいいってわけじゃないと思うし……!」
貧乳だと言うことを認めて、開き直ったよ。別に俺は、胸が大きければ大きければいいとは思わないが……。つうか、そこまで胸の大きさって大事か?
「男性は女性の胸が大きい人を好む傾向があります。幼馴染さんは、自分で認めちゃいましたね……貧乳だと。お兄ちゃんは貧乳を好みません。よって、幼馴染さんはお兄ちゃんの結婚相手になることは100パーセント不可能!」
俺が貧乳を好まないとでたらめなことを言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!! 俺は別に貧乳でも構わないと思っているのだが……。
「ふふっ! 私のことを散々バカにしていたくせに、胸がペッタンコの貧乳女だったとは……大輝のタイプとは正反対なのよ!」
俺の女性のタイプを知らないくせに、お前まででたらめなことを言うなよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!!
「大ちゃんは貧乳でも構わないよね? ねぇ!!」
マジでなんなんすか、この状況……今すぐ逃げ出してぇー。
俺は白米の入っている茶碗の上に箸を置くと、ため息をついた。
「あのなぁ、さっきから俺の取り合いをしているけど……俺は誰のものにもならない! 妹と結婚したい、幼馴染と結婚したい、元カノと復縁して結婚したい……そんなことは一度も思ったことがない!! これで分かっただろ、お前らが言い争っているのは無駄なんだよ。分かったら、さっさと飯食って帰ってくれ」
俺がそう言うと、3人は俺の顔を見つめて……しばらくの間、沈黙が流れる。
俺が思っていることを3人に伝えたから、これで3人は俺と結婚したいと思う気持ちを諦めるだろう。さすがにこれ以上、食事をしながら3人の修羅場を見ていられないからな……。
「ほら、あなたたちのせいでお兄ちゃんが嘘をついてしまったじゃないですか。私にお兄ちゃんと結婚する権利を譲ってくれれば、お兄ちゃんは嘘をつかなくて済んだのに!」
「…………はっ?」
優芽、俺はお前の言っていることが理解できないんだが……俺が嘘をついた? いやいや、お前は何を言っているんだ。修羅場と化している状況の中で、どうして俺がお前たちに嘘をつく必要があるんだ?
それとも……俺の聞き間違いとでも?
「「嘘をつかせるくらい、精神的に追い詰めちゃってごめんなさい」」
「…………はい?」
やはり、俺の聞き間違いではなかったようだ。この3人は勘違いをしている。俺が嘘をついていると……。もう一度言うが、あの状況で嘘をつく必要はないって! 俺の思いを何も理解していないな……この3人。
俺は無言で箸を手に持ち、食事を再開するのだった。
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