超常幻想調査隊
東野斉語
隠し財宝の噂の真偽を解明せよ!(1)
人が魔法を手にしたことにより、今日の人類の発展と栄華があると思われる。まさしく魔法社会とも言える現在であるが、その魔法でさえも解決できない謎がこの世には確かに存在する。
それこそが「超常幻想」である。
喫茶店で二人の男が朝食を終えた後のゆったりとした時間を過ごしていると、連れの男がやってきた。三人共々に軽く挨拶を済ませる。先に喫茶店にいた男の一人、身軽な鎧の上に肩から脛までズボッとシクラス着た男の名前はフニスといい、挨拶も早々に
「集まって早々なんだが、探検に行くか依頼を受けるか、とりあえず何するか決まってないか?」
と投げ遣りに訊ねる。
すると後から来た連れの方、名前をシバーシといい、片眼鏡が特徴の彼が、少し回答に困るこの問いかけに素早く答えた。
「それなら考えてあるんだが、ウクルトス遺跡を探検してみないか?」
既に回答が存在していたのだ。
「ウクルトス遺跡といえば新人冒険者御用達の場所じゃねぇか? なんでオレたちがそんなところに?」
自分で訊いておいて否定的な返事をするフニスだが、話を聞いていた先に喫茶店にいたもう一人の男が、もしかしてと反応した。
「ウクルトス遺跡といえば最近になって駆け出し冒険者たちの間で噂になっていますよね。なんでも遺跡には隠し部屋と財宝が眠っているらしいですよ。」
先にいたもう一人の男、アルタは、そのピシッとした黒いスーツという服装から分かる通り、フニスと違って、シバーシの話にしっかりと真面目に乗ってくれる。
「財宝ねぇ……。財宝って言葉にはグッとくるんだがよ、それって新人たちの噂だろ? 眉唾物じゃねぇのか?」
やっぱり乗り気がないフニスだが
「そういったものにも好奇心を抱き、挑戦していくのがオレたちは冒険者だろ? オレたちの手で噂を解き明かしてみるのも面白いんじゃないか。」
と今回の提案者でいつもはまとめ役のシバーシがすかさず説得を試みる。
「それに……。」
含みを持たせるように少しだけ溜めた後に
「考えてみろ。ウクルトス遺跡の財宝は、ここ最近では一番の話題だ。その真偽を解明したとなればオレたちは一躍有名になるかもしれないぞ。」
シバーシはフニスの欲に訴えかける。こういった文句を付ける輩には、やはり欲望に働きかけるのが効果的なのかもしれない。
するとフニスは、有名人というのは悪くないな〜、新人たちの間での噂だから、それを解明したら若い子からモテるんじゃないか等と、そんな浅ましいことを考えて、心の中でシバーシの甘言にあちらこちらと揺さぶられて揺さぶられて、まんまと術中に嵌っているのだが、少しして
「シバーシ、お前の冒険者としての気持ち、よく伝わったよ。オレも冒険者だ、やってやろうじゃねぇか。」
完全に釣り上げられた。それを見て、シバーシとアルタは顔を向き合わして、チョロいな……と同じ考えを示し合わしていた。
「何から始めるんだ、シバーシ。」
先程までとは違い乗り気になったフニスが、教えろ教えろとグイグイシバーシに訊いていった。都合のいい男である。
「もちろんだ、フニス。まずは情報収集からだ。オレとフニスは冒険者たちに噂の聞き込み調査を行う。アルタは冒険者ギルドでウクルトス遺跡の地図の用意と遺跡に関する資料に当たってくれ。そしてウクルトスには二日後に出発するつもりだが問題はないな?」
フニスは、おうよ!と勢いよく返事をし、アルタは、分かりましたと丁寧に答えた。
こうしてアルタは冒険者ギルドへ、シバーシとフニスは冒険者ギルドに面する通りで聞き込みを行うことにした。この通りは活気に溢れており、当たり前だが冒険者が多くいて、聞き込みにはうってつけの場所である。こういった場所では、あの男が本領を発揮する。
「そこの素敵なお嬢さん、ちょっと失礼してもよろしいですか? 私と同じく今おひとりですか?」
そうフニスだ。通りに出るなりナンパに直行する様は情熱的と言っても過言ではない。しかし、そんなことはお見通しかのようにシバーシはフニスの背後からすっと現れて
「オレの仲間がすみません。実は今、ウクルトス遺跡の噂について調べているんですよ。ご協力をお願いできませんか?」
あざやかに、そして手際よくナンパから聞き込みへと流れを変えていく。フニスの燃え盛る情熱も水に流されて、冷めてしまったようだ。
そんな様子を見て、呆気にとられつつも
「え……ええ、ウクルトス遺跡なら少し前にパーティのみんなと一緒に行きましたよ。」
と答えてくれる優しい女性であった。
「ウクルトス遺跡の様子はどうでしたか? 何か変わったことはありませんでしたか?」
流れを変えたシバーシが、その勢いのまま女性に聞き込みを行う。フニスは流石にナンパを諦めたようで、へいへいと話を聴いている。
「遺跡で変わったことですか……。確か、ありました、ありました。少し前に遺跡に行ったとき、なんて言うか、謎の震動?があったんですよ。」
シバーシとフニスは幸先がいいと思い、そのときの様子を訊ねた。
「そのときは、他のパーティが魔物と戦っているのかな?なんて思って無視していました。でも振り返るとやっぱり、そんなわけないんですよね。だってその震動はズズズ〜、ゴゴゴ〜っていうのが長く続いていたんですよ。大きくて重いものが動いてるような。まあ、これぐらいですかね。」
確かに、魔物と戦っていた仮定して、炎魔法の爆発なら衝撃は鋭いもので長く続かないだろう。土魔法なら地面を揺らすことは可能だが、大きなものが動いているような感覚になるのは、あまり想像ができないとシバーシとフニスは考える。
それにしてもフニスのナンパが早速にして聞き込みの成果を生んだのだ。良くも悪くも行動的な方がいいのかもしれない。
優しい女性に感謝を述べて二人は聞き込みを続ける。好調な出だしであったが、やはり噂というものは、ぼんやりとしているものである。多くの人が語る割には情報の量がイマイチだ。色々な人に話を訊いても次のような似たような回答が返ってくる。
「ウクルトスの財宝? アレなら未だに誰も見つけていないらしいよ。」
多くの人はこんな回答がほとんどで、やっぱりフニスが口を尖らせる。
「最初の女の子の話は、他にも震動について不思議に思った奴らがいるから本当っぽいんだが、これ以外の情報はほとんどゼロって言ってもいいんじゃねぇか?」
フニスがそう言うのも分かる。これ以上は聞き込みから情報を得られる見込みがないとシバーシは考え、時間がそれなりに経っているので、気分転換と情報交換を兼ねて、ギルドで資料にあたっているアルタと合流することにした。
ギルドに併設された食堂の一角でシバーシがアルタに、聞き込みの結果を伝え、資料調査の結果を訊ねる。
「昔と比べて変わったところで言いますと、やはり遺跡の探検に訪れる人の数ですかね。噂の影響はすさまじく、来訪者数は大きく増加をしています。また、それに付随して遺跡内での行方不明者数も増加傾向にあります。」
行方不明者数が増加しているという事実、当然ながら探検には常に危険が付き纏う、その険しい事実を再確認し、三人は改めて気を入れ、アルタがメモを確認しながら話を続ける。
「噂の隠し部屋や財宝について調べてみましたが、当然ですが資料には情報が何もありませんでした。
あとはウクルトス遺跡とその周辺に生息する魔物等の情報も確認しましたが、特に変化はありません。そしてシバーシさんに頼まれていた地図の準備もしておきました。」
アルタの周到な準備により、事がなだらかに運んだ。そしてシバーシがギルドでの探検に関する手続きを済ませ、噂の調査の一日目はお開きとなった。
超常幻想調査隊 東野斉語 @higasinoseigo
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