#4 踏切系女子の落とし方

 深夜、とある踏み切りで一人きりでいると、目の前に女性が現れる。しかし、その人には脚がなく信じられない速度で脚を奪いに来る――という噂を信じて僕はお目当ての踏切にやってきた。


 幸運なことにいつもいる酔っ払いもいなかったので、お目当ての人に会えそうだった。その予感は的中し、四つん這いの女性が突然現れた。


 噂の通り、彼女は僕の顔を見た瞬間、「脚寄越せぇえええええ!!!」と叫びながら迫ってきた。


 電車が通ったが、彼女は車輪の隙間を通り抜けて僕が立つ踏切までやってきた。至近距離で見ると確かに脚がなかった。彼女は僕の両脚を掴んで「寄越せ、私の脚ぃ」とか弱い腕を伸ばした。


 僕は静かに彼女の手を握った。思っていた通り、冷たくて手が荒れていた。彼女は「離せぇっ!!」と鋭い爪で殴りかかろうとしたが、僕はしゃがみ込んで視線を合わせた。


 目線が合ったことで、彼女は狼狽してしまったのだろう、動きが止まった。僕はポケットから良い匂いのするハンドクリームを取り出して彼女の荒れた手を塗った。


「駄目ですよ。ちゃんとケアをしないと……ここのアスファルトはゴツゴツしていて痛いから、狩りを終えた後は手を塗らないと」


 僕は片方を終えると、彼女から放っていた敵意が段々なくなっていくのが分かった。もう片方の手を塗ってあげると、彼女は交互に自分の手にまとった桃の香りを嗅いでいた。


「あと、これもどうぞ」


 僕はさらに手袋をあげた。ちゃんと歩きやすいように五本指の手袋で、可愛い見た目だが、かなり丈夫な素材で作られているので、しばらくは手の傷や荒れに気にしなくていいだろう。


 彼女は久しぶりの手袋に嬉しそうに交互に見渡した後、両腕を首を巻きつけてきた。か細い声で「ありがとう」と言ってくれた。


 感謝の印として僕の家まで背中に乗せて運んでくれた。かなり速くて落ちそうだったが、徒歩で帰るよりも早かった。


 噂ではあれ以来、彼女は出て来なくなったという。だけど、僕が行くと必ず現れて、いつも自宅まで送ってくれる。

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