第2話「少年」
「…そっか。まだまだ苦しいね。」
突然聞こえた声。窓を見るとそこには少年が座っていた。
ウェーブのかかった黒髪、サスペンダーに蝶ネクタイ。
まるで古い映画に出てくるような風貌で怪しく微笑む。
「え!?誰?誰か!助けてー!」
慌ててナースコールを押し、助けを呼ぶも外は雷が光るのみ。
恐怖で布団に包まると、その少年は再び口を開いた。
「きみはこの世界がいやになったんだね。全て忘れて僕と一緒に躍りませんか?」
「……あなたは誰?どこから入ってきたの?」
「僕はルイ。きみとお友達になりたいと思って。今から遊びに行かない?」
「…遊びに行くったって、まず私は動けないし、どこの誰とも分からない人と出かけたりしないよ!?」
「動きたいんでしょう?躍りなら手取り足取り教えてあげましょう。」
ルイと名乗る少年は白い歯を見せながら屈託のない笑顔を見せる。
(この人は何を言っているのだろう…?) 何一つ理解出来ない少年の言動に困惑していると
右腕の点滴が抜かれ、気付けば廊下まで連れ出されていた。
「待って!速い速い!」阻止しようとするも、少年の存在を自然に受け入れ、一緒に走り出している自分がいることに驚く。
(あれ?私、自由に動いている…?)身体中が軽い。どこも痛むことなく自由に動き回れることがこんなに快適だなんて。
病院の外に出たのは何年ぶりだろうか。満月の照らす街はすっかり眠っているように思えたが、
立ち並ぶ店は暖かな光を宿し、まるで絵本の世界のように幻想的だ。
久しぶりに見る外の景色に目を奪われていると気が付けば古いヨーロッパのような街にいた。タイル貼りの登り坂、赤煉瓦の建物を進む。
ドレスとタキシードを着た人々が集まるそこはまるで御伽話に出てくるかのようなお城だった。
「ルイ様。お疲れ様です。」
「おつかれ〜!クルシェ、今日もご苦労さん。」
「ありがとうございます。本日はお友達もお連れで?」
「あぁ。あ、ジュリア!お疲れ。」
「ルイ様!」「ルイ様!」「ルイ様!」
数え切れない人々の行列。来る者皆ルイを前に頭を下げる。本当に彼は何者なんだ…?
長い廊下を渡り部屋に案内される。大きな扉を開くと、そこはロココ調のインテリアにシャンデリア、大きなグランドピアノが揃った豪華絢爛な空間が!
「ここは…?」「ボールルーム。舞踏会場さ。」
「舞踏会…?どういうこと!?」
「ここで僕と一緒に躍るんだ。ふふ。きみは恵麻って言うんだね。」
「…?え、そうだけど…どうして知ってるの?」
「いやふつうに、病室の扉に書いてあったよ。はは!」
高らかに笑う。彼はやけに明るいが、その割に何を考えているか掴めない。
「まぁ、まずは座って話そう。この時間なら誰もこの部屋を使わないからね。」
温かい紅茶を注ぎながらルイが微笑む。
「驚いたかい?ここは僕のうちだ。まず、僕は怪しい者じゃない。きみに危害を加えるつもりもない。寧ろ幸せになって欲しいんだ。
恵麻。きみは毎日あの病室で美しいピアノの音色を響かせていたね。偶然通りかかったんだ。
その独創的なメロディに魅了され、きみに興味を持った。
僕はこの部屋で躍るのが趣味で、是非きみにピアノの演奏をして欲しいってわけさ!」
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