第2話 そして
掃除を終えた二人は、いつの間にかすっかり暗くなった校舎を後にして、並んで歩き始めた。秋の冷たい風が頬を撫で、夜の街はすでに静けさに包まれている。そんな中、輝人は何度も手元に視線を落とし、迷いながらも思い切って言葉を絞り出した。
「…華乃、手、繋いでもいいかな?」
華乃は一瞬驚いたように輝人を見つめたが、すぐに微笑んで頷いた。「うん、いいよ。」
その返事に、輝人はそっと華乃の手を握った。柔らかくて温かいその手は、まるで彼女自身の心のようで、輝人は今まで感じたことのない安心感に包まれた。
「なんだか、夢みたいだな…」輝人は照れ隠しにそう呟いた。
「本当にね。でも、私も嬉しい」と華乃は小さな声で応えた。
二人は、手を繋いだまましばらくの間、何も話さずに歩き続けた。しかし、その静けさの中にある温かさが、言葉以上に互いの想いを伝えてくれていた。やがて、華乃の家が見えてくると、輝人は少し寂しそうに歩みを止めた。
「もう着いちゃったね…」と、輝人が少し残念そうに言うと、華乃も同じ気持ちなのか、名残惜しそうに家の方を見つめた。
「うん、あっという間だったね。でも、今日は本当に楽しかった。ありがとう、輝人」と華乃は微笑みながら言った。
輝人は彼女の言葉に頷いたものの、まだ伝えきれない気持ちが胸の奥に残っていることに気づいていた。彼女と別れたくない、もっと一緒にいたい――そんな気持ちが、言葉にならずに心の中で膨らんでいた。
「華乃…」輝人は思わず彼女の名前を呼んだ。
「どうしたの?」華乃が顔を上げた瞬間、輝人はそっと彼女の頬に手を伸ばし、そしてゆっくりと顔を近づけた。華乃は驚いたように目を見開いたが、抵抗することなく静かにその瞬間を受け入れた。
唇が触れ合った瞬間、輝人の心は一気に温かさで満たされていった。それは、初めて感じる優しさと安心感。そして、華乃の柔らかな唇が、彼の中に確かな愛を伝えてくれた。
長いキスではなかったけれど、その一瞬は永遠のように感じられた。唇を離すと、二人は互いの顔を見つめ合い、恥ずかしそうに微笑み合った。
「…ありがとう、輝人」と華乃が小さく囁いた。
「こちらこそ、ありがとう」と輝人も答えた。「今日は、絶対に忘れられない日になったよ。」
「私も、ずっと大切にする…この気持ちも、今日のことも」と華乃は優しく微笑んだ。
「また、明日も会えるよね?」輝人が尋ねると、華乃は力強く頷いた。
「うん、明日も、これからもずっと。」
その言葉を聞いて、輝人は心からの安心と喜びを感じた。華乃にもう一度笑いかけると、彼は「おやすみ」と言いながら手を振った。
華乃も「おやすみ、輝人」と返し、家のドアの向こうに消えていった。
輝人は彼女が見えなくなっても、しばらくその場に立ち尽くしていた。胸の中で温かい気持ちが広がり、唇にはまだ華乃の温もりが残っている。ようやく動き出すと、彼は嬉しさを噛み締めながら家への道を歩き始めた。
そして、これから始まる二人の物語に胸を躍らせながら、輝人は夜の静けさの中でそっと微笑んだ。
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