二人きりの放課後

輝人

第1話 学校の教室で…

夕方のチャイムが鳴り、教室に響く人の気配が次第に薄れていった。今日は掃除当番の日だったが、体調不良や部活の用事で欠席者が続出し、結局、当番は輝人と華乃の二人だけになった。


「どうする?今日は本当に二人きりだね」と、華乃は少し照れくさそうに笑いながら言った。


「そうみたいだね」と輝人も微笑み返す。心の中では嬉しさと緊張が混ざり合っていた。二人きりになれるなんて、めったにないチャンスだったからだ。


二人はほうきを手に取り、黙々と床を掃き始めた。窓から差し込む夕日が教室をオレンジ色に染め、その光の中で華乃の髪が輝いて見えた。輝人はふと、その姿に見惚れてしまう。


「何か言いたそうな顔してるけど、どうかした?」華乃が不思議そうに輝人を見つめた。


「えっ?いや、何でもないよ。ただ…夕日が綺麗だなって思ってさ」と、輝人は慌てて視線を逸らした。


「ふふ、なんだか照れてるね」と華乃は楽しそうに笑う。


「そんなことないって!」輝人は言い訳しながらも、心の中では華乃の笑顔に惹かれている自分に気づいていた。


しばらくして、掃除もほとんど終わりかけた頃、華乃が突然、床にしゃがみ込んで小さな声を漏らした。「あっ…」


「どうしたの?」輝人は心配そうに駆け寄った。


「ゴミ袋の中身が破れちゃって、せっかく集めたゴミが全部…」華乃は肩を落としながら困った顔をしていた。


「ああ、そっか。それなら一緒に拾おう」と、輝人はしゃがんで手伝い始めた。二人で小さなゴミを拾い集めるうちに、手が触れ合いそうになる瞬間が何度もあった。そのたびに、心臓が跳ねるような感覚が輝人を包み込む。


「ありがとう、輝人」と華乃が顔を上げて微笑んだ。「こうして二人でいると、何だか落ち着くんだ。」


「俺も…華乃といると、すごく楽しいよ」と、輝人は正直な気持ちを口にした。


「そうなんだ。嬉しいな…」華乃は照れくさそうに視線をそらした。少しの間、二人の間に静寂が流れたが、その静けさが心地よく感じられた。


「ねえ、輝人…」華乃がぽつりと呟いた。「今日は、二人きりになれてよかった。実は、前からあなたに伝えたいことがあったの。」


輝人は胸の鼓動が早まるのを感じながら、ゆっくりと彼女の言葉を待った。「…何?」


「私、ずっと前から輝人のことが好きだったの」と、華乃は顔を赤らめながら言った。「でも、なかなか勇気が出なくて…今日、この機会をもらえて、本当によかった。」


その言葉を聞いた瞬間、輝人の心は大きく震えた。想いを伝えたいと願い続けていた相手が、同じ気持ちでいてくれたことに、言葉にならないほどの喜びが湧き上がる。


「俺も…ずっと華乃のことが好きだったんだ」と輝人は真剣な眼差しで答えた。「こうして二人きりになれたのは、偶然じゃなくて必然だったのかもしれないね。」


「そうだね、必然かも…」華乃は優しく微笑んだ。


輝人は思わず手を伸ばし、華乃の手をそっと握った。「これからも一緒にいられるといいな。」


華乃は小さく頷きながら、輝人の手を握り返した。「うん、これからもずっと…」


教室に静かに流れる時間の中で、二人だけの特別な瞬間が刻まれていった。オレンジ色の夕日に照らされた二人のシルエットが、これから始まる新しい物語の予感を感じさせていた。

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