第9話 ナルシスト配信
【ぷはー、ステルスモードで待機するの疲れましたよ】
(もう放課後だが……一体、何があった?)
【EX-06……【感知】の人型EXギアが居ましたからね。私の眼はごまかされませんよ】
(原作登場するのは7機のうちの4体――1、3、4、7と未完成品がゆえに数には入らない8。合計5体。6は確かに欠番。あからさまな続編フラグだと思っていたが、まあ、一般受けしないあのシナリオではな……)
あくまでも個人的に好きだったゲームであり、世間一般からは売れたゲームではないのだ。ここで問題なのはゲームの売れ行きではなく、自分の知らないEXギアがいるということだ。
(ステラ、何か知っているようだが、他の人型EXギアは――)
「森山君、ちょっといい?」
「(後で話をするとするか)なんだ?」
「時間空いているなら、一緒にダンジョン潜らない?」
(生き残るだけなら距離をとった方が無難。だが、原作と剥離している以上、フォローできるようにある程度近い距離をとる方が賢明か)
打算ではある。だが、教室の隅で仏頂面している自分に親しく声をかける人を断るほど野暮ではない。
「別に構わないが……俺たち4人だけか?」
「リョウ……隣のクラスにいる友達と先輩で6人。あっ、でも、先輩のことだからダンジョン配信するかも? 顔出し、大丈夫?」
「……極力映らないようにしてくれるなら。不特定多数に見られていると思うと手元が狂いそうだ」
ステラの感知の話が本当ならば、普段はあまり目立たない方が良いだろうと思っての提案だ。とはいえ、ステラ由来の力を使わなければ、所詮Dランク。Bランクの探索者に囲まれていては全力を尽くしても目立ちはしないだろう。
(足手まといという悪目立ちはするかもしれないが……そこはやむを得ないか)
自分を多少下卑しながらも、紹介されたリョウと軽い挨拶を済ませて、件の先輩と待ち合わせている2年の教室にいくと、あるはずの無いバラが一面に咲き誇っている。その教室の中心には赤いバラを持ち、すらりとした金髪の男子生徒。
「待っていたよ、君たち」
「先輩、僕が心配するのは筋違いかもしれないけど、生徒会の方は大丈夫なんですか?」
「後輩が僕に会いに来たんだ。たとえ火急の仕事があっても歓迎しないと。美しくないだろ」
「ナルシスト先輩、そんなことしているから先輩に怒られるんじゃないですか」
「ああ、ウチの生徒会長は起こる姿も美しい。そうとは思わないか?」
「あの雷を受けて平然としているのナルシー先輩だけですって。俺なんか、鉄になっているのに黒こげにされましたよ」
「あれはリョウ君が悪いです」
「このノリ、懐かしいね。昨日、化け物に襲撃されたんだって。でも、誰一人かけることなく助かったの安心したよ。それでこそ、僕の見込んだ美しい後輩たちだ。ところで、後ろにいる美しい子は誰かな?」
「紹介が遅れました、森山信二と言います。以後、お見知りおきを」
「ノン、ノン。固いよ、君。もっとリラックスして。このバラの匂いでも嗅いでリラックス」
先輩が何もない空間からバラを取り出し、信二に渡す。少し困った顔をして、周りを見渡すも誰も手助けしようとはしない。先輩に勧められたようにバラの香りを嗅ぐことにした。
「……頭の中が少しすっきりしたような感じがします」
「OK!美しい子には美しい匂いが必要なのさ」
【なるほど、美少女には美少女の匂いが……なるほど、なるほど】
(お前は人前ではエクスの振りをしろ)
【美少女じゃないですよ、それは】
「おっと、僕の自己紹介が遅れたね。僕は成宮慎吾。人は僕をナルシーと呼ぶのさ」
「『ナル』ミヤ『シ』ンゴだからナルシーですか」
「ナルシスト先輩だからナルシーよ」
「でも、先輩の【
「分かっているわよ。だからちゃんと敬っているし、先輩呼びでしょう」
「敬っている要素あるかな~」
「やっています。でなかったら呼び捨てか無視しているわよ」
「興味ない奴に告られたら、ぶっ飛ばすゴリラだもんな」
「それはあまりですよ~」
「あんときはあまりにもしつこかったから手が出ただけよ!」
「でも、メスゴリラはひどいと思うんだよね」
「そうか。俺にはお似合いだと思うぜ」
「リョウ、鉄になって良いわよ」
「ちょっ、やめろよ」
「ふふ、君たちは何も変わってないね。森山君との親交を深めるためにも美しくダンジョン探索しようか」
ナルシーが指パッチンすると、教室一面に咲いていたバラがまるで何もなかったかのように消え去る。そして、ナルシーがあらかじめ確保していたBランクのダンジョンへと向かうのであった。
ダンジョンに入ると、そこは人為的に作られた迷宮のような場所。このような場所に繋がる場合はトラップも多く、たとえAランクの探索者でも油断できない造りになっている。そして、ナルシーが後方から撮った映像をネットに流すためのドローンを飛ばす。
「この世で最も美しい僕の配信へようこそ!今日は昨日入学した後輩とそのご友人と一緒にBランクのダンジョンを探索するよ!」
【はじまた】
【アスカちゃん、おひさ~】
【ちっこいのが友達君か】
「おもいっきり目立っているのだが?」
「はは、ごめんね。先輩に言いそびれて」
「でも言ったところで、同じ結果になるわよ。ナルシスト先輩、人の言うこと聞かないから」
【あきらめろ】
【自分の世界に入るから】
「……承知した」
「今日のダンジョンは上層・2階層、中層・2階層、下層・1階層からなる全5階層の高難易度ダンジョンなのさ」
【ナルシーなら余裕だろ】
【ソロでもいけるんじゃね?】
【Bランクならミノタウロスくらいだろ? いけるしょ】
「それがこのダンジョン、最近踏破者が居なかったらしくダンジョンコアが育ちすぎているのさ」
ダンジョンコアは時間経過で復活し、ボスモンスターと共に成長していく。だが、長期間踏破者がいないと、本来いないはずの強敵に変貌したり、最悪の場合はダンジョン外に出てくる場合もあるのだ。
【ってなると、ソロだと下層の敵次第だけど火力不足になるか。後輩君たち大丈夫なの?】
「そういえば、森山君の異能ってどういうの? 操作系とは聞いたけど」
「そうそう、詳細知らないと作戦建てられないから困るわ」
「では、適当なモンスターと出くわしてから話すとしよう。口頭で話すより見たほうが早いからな」
ダンジョン内を歩いていると、パーティー内で探知能力に長けているサキが敵の反応を感知する。視界どころか足音さえ聞こえない距離だ。
「数5。歩幅からして大きさは子供、あるいは小柄な大人。獣人系だともう少し大きいからゴブリン系……近づいていますが、まだ気づかれていません」
「すごいな、俺のエクスにも探知機能はあるが、まだ索敵外だ」
「それは先輩がダンジョンのあちこちにバラを生やしてくれているから私の植物を操る異能が広範囲に使えるんですよ」
「射程範囲は有視界ではないのか?」
「僕の異能【完美】は僕が美しいと思える世界を作る異能だからね。その気になればダンジョンの1階層を美しく彩るくらいできるさ」
「私がそれを利用して、広範囲を見渡せるというわけです」
「ほんと、なんで先輩がまだAランクなのか分からないよ。概念系の異能ならSランクいくでしょ」
「カケル、ほんと馬鹿ね。ナルシスト先輩にはAランクでの実績がまだ足りてないのよ。今日もこうして私たちのために格下のダンジョンに来てくれているわけだし」
「ありがとうございます、ナルシー先輩」
「ノンノン、僕に礼を言う必要はないよ。僕が美しいのは世界の常識だからね。さてと、お友達君は迫る敵にどう対処するつもりなのかな?」
【お友達君のランクは?】
「森山君は僕と同じDだよ」
【Dwwwww】
【勝てるわけねえ】
【ダメージすらまともに通らんだろ】
「……まあ、やりようはある」
視界を強化した信二にようやく敵影が見える。敵はゴブリンの上位種、ハイゴブリン。下位のゴブリンと違って素の身体能力が高いのは当然だが、何よりも強力なのは単独行動することもある下位のゴブリンと違って必ずパーティーを組んで行動すること。信二の目の前にいるのは探索者の装備でも剥いだのか、ボロ目の鎧を着たハイゴブリンソルジャーを先頭に、剣や棍棒、弓を持ったハイゴブリンを従えている。
そして、向こうも信二たちに気づいたのか、リーダー格のソルジャーがハイゴブリンたちを突撃させる。
「これが通用すれば良いんだがな」
「鎖?」
「狙い打たせてもらう」
EXギアから取り出した鎖を地面に置いてから、襲い掛かってくるハイゴブリンに1発、2発と撃っていく。
【駄目だ、まるで効いてねえ】
【所詮、Dランクよ】
「問題はない。行け!」
ハイゴブリンと【接続】した捕縛用の鎖が独りでに動き出していく。そうはさせまいとハイゴブリンが棍棒で殴り飛ばすも、意志を持ったかのような鎖は彼らに巻きつけ、動きを封じる。
【なんだあれ?】
【鎖に秘密があるのか?】
【いや、鎖は市販品。といっても上等なもののようだけど】
【となると追尾系の異能か?】
【追尾系の異能を持っているにD?】
【最低でもCはあるよな。条件が厳しい系?】
「俺の異能は攻撃を当てないと発動しないんだ。弱いせいでワンパンできるEランクのダンジョンに通っていたから、長い間無能力者だと思っていたくらいだ」
【なるー】
【下位のゴブリンとかスライムはバットを持った子供でも倒せるくらいだしな】
【強い敵には発動するけど、そもそも当たらない可能性まであると】
【良くてCだな】
【常時発動型ならBいけるんだけどね~】
【Aは追尾+αいるし、Sは人外】
「あとは僕たちに任せてもらえるかな。サキ君、僕たちの合体技を見せつけてあげようじゃないか」
「はい、お願いします」
ナルシーが一面に鉄砲ユリを咲かせると、種子が身動きが取れなくなったハイゴブリンに向かっていき、うち貫いていく。盾を構えたことで一人残されたソルジャーが向かっていくも、アスカの剛腕にあっさりと屈するのであった。
「まるで機関銃だったな」
「僕たちの合体技さ」
「久しぶりに使ったので緊張しました」
「リーダー格を倒した私の活躍は!?」
「アスカもカッコよかったよ」
カケルに褒められたことで嬉しそうにするアスカ。互いに実力が分かったところで、ダンジョンの中をさらに探索するのであった。
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