第10話 ダンジョンボス
ダンジョンも中盤に差し掛かると上層で見かけたハイゴブリンだけでなく、生きている甲冑――リビングアーマーの上位種マスターアーマーが闊歩するようになってきた。しかも、単騎ならともかく、お供にハイゴブリンプリーストやハイゴブリンアーチャーを連れてきており、後方支援も仕掛けてくる。
「下手に私が突っ込んだらハチの巣にされかねないわね」
「こういうときは俺の出番だ。【鋼鉄】」
自信の身体を鋼に変えたリョウが突っ込み、マスターアーマーと取っ組み合いをし始める。そんな彼にハイゴブリンたちが矢や炎で支援するも、効いているようには見えない。
「これくらい屁の河童だ」
「これだけ時間を稼いでくれるなら狙いもつけやすい。今度は引き寄せるとしよう」
信二が放った弾丸が後ろのハイゴブリンたちに当たると、持っていた獲物が引き寄せられてただのハイゴブリンになってしまう。せっかく得た武器を奪われたハイゴブリンが逆上して襲い掛かるも、アスカが殴り飛ばす。後ろの支援役を倒している隙にカケルがビームソードを展開、Bランクの探索者でも手を焼くマスターアーマーをあっさりと両断する。
【追尾以外にもやれるのね】
【C……ギリBに届くくらいの異能やな】
【剣の子もやばいね】
【後輩がEXギア新調したみたいで、火力不足が補えるようになった】
【あとは実績。Dランクの二人はこのダンジョンクリアしたらCランクへの昇格届は出したほうが良いぞ】
【この動画が証拠になる。届け出から数週間くらいで返事が来る】
「成宮先輩、よろしければ……」
「ノンノン、畏まらなくて良い。僕のことはナルシーと呼びたまえ」
「では、ナルシー先輩、この動画のコピー、あとでいただけないでしょうか」
「もちろんだとも。僕の美しい活躍、いくら見ても飽きないだろうからね」
ナルシーと約束を取り付けたところで、さらに下層へと進んでいくと、今度はハイゴブリンの姿を見無くなった代わりに水晶や鋼鉄で出来たゴーレムがマスターアーマーをぞろぞろと引き連れて歩いている。古くから存在する歩兵と重戦車の関係と考えれば、中々に厄介なパーティーだ。
「馬鹿力で俺の鋼鉄の身体を打ち砕こうとするゴーレムは苦手なんだよな……」
「水晶系が魔法、鉱物系が物理に強いから注意しないと」
「でも、私、ゴーレムを倒せるほどの力は……」
「だったら、僕がクリスタルゴーレムをやるよ。魔法の刃なら倒せるかもしれない」
「やれるのひかりちゃん?」
【はい、あの程度の敵ならシュシュと倒せます】
「へえ~、カケル君のことだから、安物のウェポン型EXギアだと思っていたけど、受け答えできるAIが付いているモデルとなると結構高かったんじゃないか」
「いえ、入学祝いに親に買ってもらえたんで……」
「……だと良いんだけど。大切に使いなよ」
【怪しまれていますねぇ】
(だろうな。少なくともあれだけの切れ味を出そうとしたら、そこらの車1つや2つは余裕で買えるだろう。それを入学祝いとはいえ、一般庶民が買えるかと言われるとな)
ステラの言葉に同意しつつ、モンスターを倒しながら探索を続けていくと、とある部屋の前でサキが立ち止まるように言う。
「何かあったのか?」
「この先、モンスター多数。モンスターハウスです」
「ここは諦めて他の部屋を探索するか? マッピングしているが、まだこの先が下層へと続く道と決まったわけじゃない」
「いえ、先輩の花からの情報だと、このさきに階段があります」
「参ったな。モンスターハウスは避けるものと聞いたが……」
「なに弱気になっているのよ。Bクラスのダンジョンなんてこういう壁を超えないとクリアできないの。ガツンと行きましょう。不意打ちに備えてリョウが先頭。2番手に私とカケル。ナルシスト先輩たちはその後。良い?」
「俺、ゴーレムの攻撃に耐えきれるかな」
「いざというときは僕が治してあげるよ」
「リョウ君、頑張って」
「応援しているぞ」
「……そこまで言われたら仕方がねえよな。よし、行くぜ!」
鋼鉄になったリョウが扉を開けて、中に入るとマスターアーマー体とゴーレム種合わせて30体ほどが広い空間で迎え撃とうとしていた。
「半分、ゴーレムかよ……マスターアーマーは何とかするからゴーレムはなんとかしてくれよ」
「ええ、私は右。カケルは左」
「分かったよ」
左右に分かれた二人が数メートルはあるゴーレムに向かう。アスカが蹴り飛ばして他のゴーレムやマスターアーマーを巻き込むように戦っているように対し、カケルはビームソードを振り回して1体1体着実に葬っている。
「跳弾が怖いから、魔力弾に変えて……くっつけ」
リョウを取り囲んでいるマスターアーマーに向かって弾を撃ち、彼ら同士の身体を抱かせるかのようにくっつかせる。
【ここにきてDランク君、覚醒か】
【支援とマッピング担当だけじゃなかったんだね】
【あの硬くてめんどくさいマスターアーマーが肉団子に……】
【肉ねえけどな】
【生きているからドロップはしないけど、無力化することに関しては頭一つ抜けている異能だわ】
【これDってマ?】
【マジらしい】
【追尾系の異能なのにすばしっこい奴に使えないから無能だと思っていました】
【節穴乙】
【これ追尾じゃなくて、張力系の異能だわ。応用も効くタイプの】
【攻撃を当てないと使えないのをどこまで考慮するかだな】
【弾を当てられない相手はそもそも勝てないから、即撤退すると考えれば実質ノーデメリット】
【格下狩り性能が強いが、順当に経験を積めばBランク入りは堅いな】
マスターアーマーの処理を終えて、カケルたちの援護に入ろうとゴーレムに向かって魔力弾を放つも、クリスタルゴーレムは魔力に抵抗があるせいか【接続】が効かない。クリスタルほどでなくとも魔力に抵抗があるミスリルゴーレムだと効き目が弱く、パワーで引きはがせるレベルだ。
【浸食を使えばこの程度の耐性、無視できますよ】
(今日は使うつもりはないぞ。それに【接続】も無敵ではないことが分かった。これは【浸食】を使っていたら分からない収穫だ)
自分の異能の限界を知ることが出来ただけでもこの誘いに乗った価値はあったともいえる。そして、カケルが最後の一体を倒してモンスターハウスを突破することに成功する。そして、部屋の隅にある階段を下っていく。
「ずいぶんと長いな」
「多分、この下がダンジョンのボス部屋ね。下る階段が長いってことはそれだけ大きい部屋で戦うってことだから」
「それにしても長くねえか?」
「うん、これは空を飛べるモンスターが居てもおかしくない。例えば、ドラゴンみたいな」
「ドラゴン!? 私たちで勝てるんでしょうか?」
「やばくなったらEXギアの緊急脱出機能あるし、大丈夫」
「その前に僕の【完美】で君たちの体力を回復させるよ」
ナルシーが指パッチンするだけで、疲労感が消えたほか、かすり傷や腫れていた箇所がみるみるうちに治り、それどころかモンハウの攻略で減っていたはずの魔力も完全まではいかなくとも8割近くまで回復する。そして、最下層の扉を開けると、そこにはクリスタルドラゴンが挑戦者を待ち構えていた。
【気をつけろ、Aクラスのモンスターだ】
【ゴーレムも厄介だけど、こっちはスピードもあって空飛べるからな。脅威度がダンチ】
【Dランク君、無能になった模様】
【それ言うならモンハウのサポートが大金星よ】
(擁護の声もあるが無能と言われても仕方がない。とはいえ、何もしないわけにもいかない。少しでも隙があれば、狙い撃てるようにしないとな)
後方からいつでも援護ができるように構えながら、戦況を見る。まず、飛び出したのは特攻隊長のリョウ。鋼鉄に変えた拳で殴りかかろうとした空に逃げられてしまい、口からの炎弾でワンサイドゲームとなっている。
「いくら僕が足が速くなっても空は飛べないし……」
「私も頑張ればあの高さまで跳べるけど、明らかに的になるだけだわ」
「どうやら僕の出番のようだね。君に華を授けるとしよう。良い花瓶になれそうだ」
ナルシーがバラを矢のように飛ばし、バラの切っ先が水晶で出来たドラゴンに突き刺さる。そして、バラの花が爆発し、花弁が自由自在に飛び交いクリスタルドラゴンの体皮をカッターのように切り付けていく。
それに負けじと、ドラゴンが翼を大きく羽ばたかせ、花弁を蹴散らすと同時に真空の刃がナルシーに襲い掛かる。
「僕の美しい顔に傷つけられても困るな。フローラルシールド」
巨大な花のような盾がナルシーの前に展開し、ドラゴンのエアカッターを防ぐ。そして、防ぎ切ったシールドが花弁のように散り、ドラゴンの体表を切り付けていく。
「このまま僕が倒しても良いけど、後輩たちに華を持たせるのも先輩の務めさ。サキ君」
「はい、任せてください」
刺さったバラの根元から根っこが延びていき、クリスタルドラゴンの中から浸食していく。透き通って見える分、延びた根っこが血管のように見えて中々にグロく見えてしまう。そして、自分の体のコントロールがうまく出来なくなったクリスタルドラゴンが墜落し、アスカとカケルがとどめを刺すのであった。
「ダンジョンコアってことはやっぱり、このドラゴンがこのダンジョンのボスだったんだね」
「これより強い奴はいないでしょう」
「というわけで、このダンジョンの配信はこれにて終了。僕の美しい活躍を見たい方はチャンネル登録をしてね」
【お疲れ様】
【888888】
【既に登録しているぞ】
「取り分だけど、ダンジョンコアは僕が貰って、クリスタルドラゴンは君たちで山分けってのはどうかな」
「良いんですか?」
「とどめを刺したのは君たちだし、今日の僕はお手伝いが中心だったからね。美しい僕からの入学祝いだと思ってくれ」
「これで新しい武器を作るわよ」
「俺は売って新しいギターに変えるぜ」
「換金は良いけどドラゴンを素材にした武器を作るには、この学校の施設だと厳しいかな」
「えっ~!」
「最先端の設備がそろっている虎西学院ならできるかもしれないけど……機会があれば、向こうの技師に声をかけてみるよ」
「ありがとうございます」
「お礼を言われるほどでもないよ。そういえば君たち、どの部活に入るか決めたかい?」
「いえ、まだ」
「探索系の部活がしたいくらい?」
「それなら、別に部活に入らなくてもなあ」
「はい、こうして放課後、皆さんと一緒に潜った方が楽しいです」
「俺も特に決めてはいない」
「それならダンジョン探索の同好会があるんだけど、あそこ部員が少なくてね。今年、部員が入らなかったら廃部になるんだ」
「仕方なくね、そんなの」
「二人とも磨けば光る玉石なんだけど、公式な部の方はBランク以上の実力者とか言ってお高くとまっているし、生徒会長は人数が足りないならやむなしというけど、僕個人としては今は落ちこぼれだからと言って切り捨てるのは美しくないと思うんだ」
「わかりました。その部活はどこでやっているんですか?」
「職員室の隣にある小会議室だよ」
「今日は遅いんで、明日、同好会の方と会いに行きます。良いよね?」
「良いんじゃない。ナルシスト先輩が評価している人たちの実力を見ておきたいし」
「だな。少なくとも正式な部の連中よりかは面白そうだ」
「仲良くなれると良いですね」
「俺は保留だ。今日の探索で俺にBランクのダンジョンは早すぎたと実感したからな。それに他の部活も見て回りたくはある」
【なんで入らないんですか? 美少女と言えばキラキラした部活。美少女同士が手をつないでジャンプなんですよ】
(俺たちの当面の目標は第7章を未然に防ぐこと。それに奔走する時間を考えれば自由に部活はできない。とはいえ、1年の部活は強制だ。どのみち、その同好会に入る可能性はある)
【素直に入ると言えば良いのに】
EXギアの脱出機能を使って地上へとワープし、信二たちは帰路に就くのであった。
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