第8話 動き出す陰謀

 カケルたちはカケルの家に集まり、これからどうするかについて話していた。不良たちのことは連絡済み、先生が言うには再度自衛隊がダンジョン内を再検査、場合によっては取り調べを受けてもらう必要があるとのことだ。

 問題は話していない人型EXギア。今はサキの服を着ているが、小柄な彼女のものでもサイズがあっておらず、だぼだぼな恰好だ。そしてエクステラが守れと言ったからには、この子に何らかの秘密が隠されていると思い、まずは彼女から話を聞きことにしようとした。


「ライトちゃんでいいのかな」


「はい、EX-01ライトです」


「でも、見るからに女の子だし、ライトってのもなぁ。どっちかというと男っぽい名前だろ」


「ではライトからとってひかりちゃんというのはどうでしょう」


「いいな、それ。ひかりちゃん。どうだ?」


「はい、今日からひかりです」


「ひかりちゃんに聞くけど、あの施設は何なの?」


「あの……長い間眠っていたので、ほとんどの情報が破損しています。わたしが覚えているのは殺すことしか取り柄の無い異能【切断】だけです」


「そんなこと無いよ。ひかりちゃんが居なかったら、エクステラの救援も間に合わずに死んでいた」


「そうね。悔しいけど、私の【怪力】だと役に立たなかった」


「だな。そういや、お礼言ってなかったっけ。サンキュー、ひかりちゃん」


「いえ、わたしのようなEXギアにお礼なんか……」


「アンタ、どこからどう見ても人間だし、素直に喜べばいいと思うよ」


「はい!」


「今日は夜も遅いし、解散するけど、その子にへんなことしないように」


「そんなことしないって」


「分かればよし」


 アスカたちは部屋から出ていき、カケルとひかりが残される。色々とあったせいで着かれていた彼はベッドの上に寝転ぶと瞼が重くなり、逆らうことなくすやすやと寝落ちする。そんな彼を見たひかりが不思議そうに顔を見つめ、もぞもぞと一緒にベッドの中へと入るのであった。




 龍東学園の学区内にあるビル内で老人たちが会議を開いていた。手持ちのタブレットにはひかりのデータ、そしてみみみが撮影したエクステラの動画が映し出されている。


「EX-01は学生の手に渡り、EX-00、EX-08はエクステラという謎の少女の手に落ちている。これは由々しき事態ですな」


「EX-01所有者は特筆すべきことのない落ちこぼれ。取り返すことは容易だろう」


「だが、素直に手に入れた力を返すかな。正規手段でも『ダンジョン内での拾得物は違法性が無い限り、拾得者がその権利を得る』この条約を盾にされるぞ」


「法と秩序の番人たる我らが条約を表ざたに無視するわけにはいきませんからね。しばらくは彼に預けておきましょう」


「100年近く前の暴走事故……あれ以来の稼働データとなるわけじゃな」


「ただの稼働ではない。正規の適合者による実用データは初だ。たとえ、学生が運用したデータと言えども値千金」


「いざという時に取り返すめどは?」


「現在、彼の交友関係を調べております。最悪、彼らの誰かが問題を起こしてもらい、そのどさくさで奪えばよろしいかと」


「ひひひ、それならワシの実験が役に立つのう」


「『Sランク量産計画』は良いが、失敗ばっかじゃねえか」


「素材が貧弱なのが問題なのじゃよ。せめてBランクは欲しいところじゃ」


「贅沢を言うなよ、爺さん。いや、お嬢ちゃんの方が良いか」


「ヒヒヒ、若々しい体はええのう。ところで、エクステラというやつにワシの可愛い天使ちゃんをねとられたのじゃが、どうなっておる」


 モニターにエクステラの報告書が映し出される


 エクステラ

 性別:女性

 年齢:十代(推測)

 EX-00ステラの適合者と考えられ、未完成品であるEX-08を奪取。その目的は不明。

 Bランク以上の救援に駆け付けるのは天使の奪取と考えられる。奪取した天使の使用用途は不明。

 我らの実情を知っている可能性もあり、『Sランク量産計画』を始め、漏洩情報の確認は急務。

 実力自体はAランクだが、EX-00の危険性を考慮し、暫定的にSランクを申請中。


「よもや暴走事故以前も、その後も現れなかったEX-00の適合者が出てくるとは……」


「あの現場に居合わせたが、そやつの力をそぎ落として封印するのに当時のSランク3人が死亡、事故そのもの抹消は疲れたぞい」


「その場に居合わせたくありませんね」


「で、奪い返す算段は? 正体は分かっているだろうな」


「残念ながら、警察の犯罪者データベース、自衛隊の異能力者データベースには未登録。活動範囲が学園都市に集中していることから、公安に学園都市内の背格好の近い女生徒たちを見張らせているが、結果は出ていない。表ざたにしようとも、現状の動画・証言では違法性を問うことは不可能。むしろ、人助けしていますからね。もし、表でも追わせようとするのであれば、捏造できるような致命的なシーンでも撮る必要はあるな」


「これだから警察も自衛隊も役に立たん」


「言うてやるな。彼らは裏のことは何も知らないピエロだ」


「さよう。世界を牛耳ているの我ら評議会だけだ」


「そう、すべては主神の御心のあるがままに」


 老人たちは自分たちの領地へと転移し、少女だけが残る。


「さてと、ワシも実験の準備に入るとするかのう。次に入荷する素材が植物系の異能持ちならこの前手に入った力天使級と相性が良いのじゃがな」


 顔にそぐわない、不穏な笑みを浮かべながら会議室を出るのであった。



 翌日、登校した信二は空いている席を見ていた。そこは不良たちが居た席。何も知らないクラスメートたちは、ずる休みしたのだろうと思いながら担任がやってくるのを待っていた。

 そして、教室にやってきた担任が不良たちの不運な死亡、それに伴い学年集会があると言い、体育館へと集まる。壇上には校長や教頭の他に、見知らぬスーツを着た女性と自分たちと同じ年ごろの女の子が立っていた。

 異能と呼べるくらいには要領のえない話しが終わると、スーツの女性が壇上に上がる。


「自衛隊の速水1尉です。本日はこちらの不手際により、このような不幸な事故を引き起こしてしまい、申し訳ございません」


(自衛隊か……この世界だとWW1後に日本軍が解体されて、防衛を担う『国防軍』、災害やダンジョン被害を抑える『自衛隊』の2つに分かれたんだな)


 ダンジョンが出てきてからの近代史は前世とは全く異なるため、戸惑ったのは良い思い出である。だが、問題はこの自衛隊が出てくるのは第6章の冒頭ということだ。


(6章で自衛隊から低レベルダンジョンでも強敵が出てくるという発表が起こると、どのダンジョンでも天使が出てくるようになって、武器の無い状態で主人公が出会うとゲームオーバーになりかねないイベントだ)


 そして、速水1尉からそのイベントと同じ言葉を聞かされ、1章冒頭から天使がランダムエンカウントする鬼畜仕様に早変わりする。


(ゲームでならばともかく現実でやってほしくなかったな……それにしても、ステラの声が聞こえないな。こういう時はうるさいくらいにはしゃべりかけてくるはずだが)


 未だに静まり返っているステラに不安を覚えながら、退場する自衛隊員と少女を見送るのであった。



「EX-06、学園都市内の索敵は?」


「はい。報告書通りEX-01の稼働のみを確認しました。EX-00、EX-08の反応はありません」


「EX-08は未完成品だから反応しないのは当然として、EX-00が見つからないのはマズイわね」


 EX-06の異能は【感知レーダーサイト】。学園都市中心部にある中黄高校ならば、学園都市一帯の索敵など朝飯前。その気になれば沖縄から北海道にある時計台の下にいる蟻の数を数えるくらいはできる。


「EX-00の異能の影響でしょうか?」


「さあ。上層部は私たちみたいな下々には肝心な情報を与えないもの。こっちは貴重な人型EXギアの適合者だっていうのに」


「掛け合ってみます?」


「無駄なことしたくないわ。情報を貰えなくても、人型EXギアの使い手だからわかる。人知を超えた力は私たちで管理しないと大変なことになるわ」


 人型EXギア内で戦闘能力が低いと言われているEX-06でさえ、通常のレーダーが数百キロほどの範囲に対してその十倍を超える範囲を軽々扱える。軍事兵器と併用すれば、世界のミリタリーバランスは容易に崩れるであろう。


「EX-00とエクステラ、WW2を引き起こさないためにも、国防軍の手に渡る前に必ず捕まえる」


 速水は決意を胸に車を走らせるのであった。

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