第7話 原作剥離

 廃工場ダンジョンに入った不良たちが最深部でダンジョンコアを置き、その周りを【召喚】で呼び出したモンスターたちに守らせる。周りや道中には【設置】で仕掛けた罠を用意。気づかずに押せば煙幕や転倒させて隙を作る。最後の一人が【潜伏】を使い、罠やモンスターに手こずっているカケルを闇討ちする手筈となっている。

 一番油断しているであろう階段付近で、のこのこやってくるカケルに奇襲。あとは時間が来るのを待つだけ。ここに出てくるモンスターは強くてゴブリン程度。はっきりいって、B・Cランクの敵ではない。完全に油断しきっている三人の頭上からぽちょん、ぽちょんと水滴が落ちる。


「なんだ水漏れか?」


「いや、これは――」


 三人が頭上を見上げた時、そこにあったのは巨大な口。一人が飲み込まれかみ殺される。慌てて、二人が反撃するも化け物には効かず、もみくちゃした仲間だった死体をぶつけられて、体を壁にたたきつけられてしまう。その衝撃で身動きができない二人は巨大な手で捕まえられ、最初の一人と同じ末路をたどるのであった。



「約束通り1時間経過。行こう」


 日が落ち、外で不良たちの約束を守って一時間後に突入するカケル、アスカ、サキ、そして面白半分でついてきたリョウの4人。後ろの3人は一切の手出しをしない約束だ。


「えっ~っと、ここにトラップあるね。これを避けてっと」


 たどたどしく歩いているカケルを見て、思わず手や口を出しそうになるアスカをリョウやサキが止める。ストッパーが居て正解である。でてくるモンスターを蹴り飛ばしつつ、下層へとつながる階段を発見し、降りていく。ダンジョンにある階段ではモンスターが出てこないため、一種のセーフエリアとなっており、複雑で広いダンジョンを攻略する際はここでキャンプすることもたびたびある。


(もし、不良たちが仕掛けてくるとしたらこの辺りよね)


(油断するところだしな)


 アスカとリョウが万が一に備えて警戒しながら、階段を下りていた時、カケルが急に立ち止まる。


「なんか踏んだ」


 足裏で感じる変な感触。それが何だろうと思って手に取るとそれは何かの肉片。情けない声を出しながら、それを放り投げて後ずさる。


(何しているのよ)


(先に討伐したゴブリンの肉片でもおいていたんだろ。すぐに消えるわけじゃねえし)


(ちょっとかわいいです)


 三人が見守る中、カケルが階段を下ると、そこに広がっているのは惨状の後。下半身だけが食い残された死体が2つ。ぐちゃぐちゃになった死体が1つ。それらの死体が来ている服は自分らと同じ中黄高校の制服。


「推定Bランクで救援要請!私が先頭でリョウが背後、サキとカケルが左右の警戒!」


 惨状を目の当たりにしたアスカがすぐさま指示を飛ばし、救援といつもの陣形をとるように指示する。おそらく、被害者は不良たちだろう。賭けは無効。それどころか自分たちの命すら怪しいレベルだ。


「自衛隊は何していたんだよ」


「調べたんじゃないですか」


「泣き言は後!」


「急いで出よう!」


「そうね、それが――」


【今の貴方たちなら半分は死ぬわね】


 アスカがカケルの言葉に同意しようとしたとき、エクステラの言葉がリフレインする。どうして、ここで思い出したのかは分からない。だけど、ここで引き返せば間違いなく誰かが犠牲になるという直感があった。


「――一番いいのかもしれないけど、この先を調べてからにしましょう」


「危ないって」


「そうです。自衛隊の人も見つけられなかったんですよ」


「うん、アスカらしくないよ。理由を教えてくれないかな」


「エクステラの予言、覚えているでしょう?」


「俺たちの内、二人が死ぬって奴か」


「逃げるのは一番ベストな選択よ。私だってそう思う。だからこそ予言の通りになる可能性が高い」


「あえて逆らうってことだね」


「ええ、そうよ。もし、万が一、死ぬようなことがあったら私を恨んでも構わないわ」


「分かった。僕はアスカを信じるよ」


「おい、カケル」


「私もカケル君とアスカちゃんを信じます」


「サキまで……わかったよ。信じれば良いんだろ」


「ごめんね、みんな。この奥に何があるか調べましょう」


 アスカ達がダンジョンの奥を調べている一方で、ダンジョンの入り口の天井に張り付いていた化け物はドスンと響かせてダンジョンの奥にいるカケルたちを追いかける。それを建屋の外から銃口を構えてみていたエクステラ。


「カケルたち、来なかったわね」


 本来ならば、入り口が見えたところで焦ったリョウが抜け駆けし、一人になったところを頭上からパクリと食べられる。入口をふさがれた三人はリョウの死を嘆く暇もなく、追いかけられてダンジョンの最深部(正しくは中層)にたどり着くというもの。


「私たちも中に入りましょう」


【ずいぶんと積極的ですね。後は成り行きに任せるのかと】


「一人の生死がすでに変わっている。それがどう及ぼすか調べる必要があるわ」


【なるほど。ではLet's美少女タイム!】




 カケルたちがダンジョンの奥へと進んでいた時、その異変に先に気づいたのはサキだった。


「後ろから何か来ます」


「EXギアには何の反応もないぜ」


「いえ、警戒しましょう」


「うん、サキが間違えることは無いよ」


「リョウを先頭にして、戦闘準備!」


 4人が身構えて待ち受けること数分。EXギアから敵接近のアラームが鳴り響く。そして現れたのはどろどろの土人形の姿。


「あれはエクステラが倒したゴーレム!?」


「救援要請をAランクに変更!逃げるわよ!!」


「ああ!あんなのかないっこねえ!」


「サキちゃん、僕の背中に乗って」


「は、はい!」


 足の遅いサキを背負ってカケルたちはどこかでまける場所があればとダンジョンの奥へと向かっていく。だが、ここは初心者が行くような簡単なダンジョン。う回路は少なく、ほぼ一本道だ。あっという間に不良たちがダンジョンコアを置いていた最深部にたどり着いてしまう。


「行き止まり!」


「どうするんだ。逃げ場がねえぞ」


「戦うしかない。リョウと私が殴ってよろけさせる。その間にサキが縛り上げる。カケルはそのままサキの足に」


「分かった、それで行こう」


「はい、頑張ります」


「しゃーねえ、腹をくくるか」


 化け物が大きな口からよだれをたらしながら、リョウたちに殴り掛かってくる化け物。自身を鋼鉄に耐えるリョウだが、その衝撃は重く壁に吹き飛ばされてしまう。


「リョウ、大丈夫!」


「俺は大丈夫だ……って言いたいけど、俺の鋼鉄の皮膚にひびを入れやがった」


「なら、後ろに下がって。後は私が」


「馬鹿言え!いくらお前でも何度も攻撃を躱し続けられるわけねえだろ」


「ど、どうしよう……」


(駄目だ、このままだと皆死ぬ……)


【聞こえていますか?】


「……声? 女の子の声?」


「何を言っているのよ」


「俺たち以外に誰もいないぜ」


「でも、聞こえたんだ」


【聞こえているなら、扉に手を触れてください】


「扉? この壁のこと?」


 謎の少女の声に従うように壁に手を触れてみると、壁に刻まれた紋様に魔力がいきわたり、ゴゴゴと動き出す。何が起こっているのか分からない4人だが、何かないかと藁にすがるつもりで中へと入っていく。その中には無数にある人が入るほどの大きな空の試験管と中央にぽつりとある一回り大きめの試験管。その中には小学生くらいの少女が生まれたままの姿で入っていた。


「これってみみみの動画にもあった」


「違法実験跡か?」


「でも、この子は……」


【わたしの声、聞こえますか?】


「呼んでいるのはこの子だ!」


 カケルが中央にある試験管に駆け寄って触れてみる。すると、中にいる少女の手が動いてカケルの手に合わせるかのように試験の壁に触れる。それと同時に試験管が割れ、二人の手が触れ合う。


【契約しますか】


「するよ」


 この少女が何者で、何の契約なのかもわからない。だけど、カケルは直感的にこの少女を信じることにした。すると、女の子が光の球になってカケルの手元にやってくる。それを触ってみると、光の球はビームソードと呼ぶべき青白い光刃を持つ剣になる。


「これは一体……」


「人型のEXギアなんて聞いたこと無いよ」


【わたしはEX-01ライト。貴方はわたしの適合者に選ばれたのです】


「よくわかんないけど、君の力で何度も再生する化け物を倒せる?」


【はい、わたしの異能は【切断】。あらゆるものを斬る能力です。たとえ、再生能力が高くても問題ありません】


「分かった。行くよ、【加速】」


 アスカとリョウ、二人で押さえている化け物に向かって勢いよく走っていくカケル。その刃で化け物を手を切り落とすと、再生することなくぽとりと落ちる。怒り狂ったかのように残った手を振るうが、すばしっこいカケルに当たる気配はない。難なく躱し、残った手も切り落とす。攻撃手段を失った化け物に向かって大きく剣を振るって、一刀両断。


「すげえ、推定Aランクがあんな簡単に……俺にもそのEXギアつかわ……っていてぇ!?」


 バチッと強力な静電気で触れた感覚。カケル以外には使わせないということだろうか。とリョウが思っていると少女の姿のライトが現れる。


「すみません。適合者以外の方が扱うことはできないんです」


「ああ、悪かったよ。えっ~と名前は? 俺は鉄リョウ」


「僕は天地カケル」


「栗原アスカよ」


「大村サキです」


「はい、リョウ様、カケル様、アスカ様、サキ様」


「様なんて畏まらなくても……」


「色々と聞きたいことはあるけど、一旦、ここから出ましょう。自衛隊にこの場所のことを説明しないといけないし」


「そうだな。きっと報酬たんまりもらえるぜ」


「あっ、その前に借りている1万円返してね」


「私の3千円も」


「私からも5千円借りてたわよね」


「うっ……臨時報酬が一気に無くなりそうな予感」


 4人が笑いながら部屋から出ていこうとしたとき、突如、キーンと耳鳴りが聞こえる。思わず、耳をふさいで、何が起こっているのか辺りを見渡す。すると、何もない空間にひびが入り、中から首のない天使のような化け物が現れる。大きさは2~3mの巨人。この世のものとは思えない生物。顔が無いにもかかわらず、こちらを見ているような錯覚さえ抱かせる存在感。見ただけで分かる圧倒的格上感。


「なんだあれ……見たことねえぞ」


「天使っぽいけど……」


「星々が煌めいているのに天の使いを寄越すなんて無粋にもほどがあるんじゃない?」


「その声は――!」


 黒い弾丸が天使のヘイローにぶち当たり、ひびが入る。そこにすかさず、威力を込めた一発を放ち、ヘイローを破壊する。


「「「「エクステラ!」」」」


 未知の敵と同時に現れるエクステラに喜びの声を上げる4人。だが、肝心のエクステラの内心は穏やかではない。


(能天使級だと!? 雑魚とはいえ出てくるのは6章のはず。プロローグで出てきて良い相手じゃない)


【ついて来て正解でしたね】


(ああ、全くだ。ここで戦えば間違いなく全滅だ。だが、ヘイローの部位破壊に成功したからご自慢の再生能力はない。一気に畳みかける)


 天使が手のひらを向けてビームを放つも華麗に宙を舞うエクステラには当たらない。くるりと回転しながら放った黒い銃弾が突き刺さり、苦しみだす。


「天使に星の救済ってのも野暮なものね」


 エクステラが放った砲撃が天使の胸部を撃ち抜くと、そのまま倒れてしまう。その残骸に向かって、彼女が歩き、EXギア内に収納する。


「その天使の残骸、私が貰うわ」


「それは別にいいけど、あれは何なの?」


「あれは天使。人が悪魔と契約したから現れし者。この学園都市に災いを呼ぶ者」


「災い?」


「何か起こるんですか?」


「契約者になったのであれば争いに巻き込まれるわ。何があっても守り通しなさい。星は見守るだけ。決断するのは人よ」


 エクステラがいつものように消え、4人だけ取り残されてしまう。不良たちが死んだことを先生に伝え、そして人型EXギアのこと、これからどうするかを考えると頭が痛くなるのであった。

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