第5話 一足早い邂逅

【スピードを意識して6割ほど。みるみる上達しましたね~】


「成功率を意識して使用すれば9割超。入学までには間に合ったか」


 倒れたゴブリンをEXギアに収納する。春休み中はダンジョンに潜っての【接続】の練習。これで何かしらあれば、とっさに【浸食】付きの弾丸を放つことができるようになったと言えよう。


「あとは【浸食】以外の【接続】の使い道、その実証だな。いくつかは案はあるが、試さなければ意味はない」


【その前に、上達記念に美少女になってBランク以上のダンジョンに入りましょう】


「それもそうだな。俺もエクステラ姿でいくつか試したい案もある。救援依頼のあるダンジョンを探してくれ。俺の手持ちのビーコンは1個上のCランクまでしか使えないからな」


【了解です。少々、お待ちを……ありました。かなり近場ですね。中黄の学区内です】


「承知した。では行くぞ」


 信二は自分のビーコンを付けたダンジョンでエクステラに変身する。ダンジョンの優先権さえとっていれば、不良でもなければ人が勝手に入ってくることはないため、人目を忍ぶ必要もなく変身できる。


【ミステリアス感を出すため、転移魔法で移動しましょうね~】


(魔力の無駄遣いだな、まったく……)


 エクステラが転移すると、そこはサンサンと太陽が照り付ける青い海と白い砂浜。ここがダンジョンでなければ、ひと泳ぎしたい気分ではあるが、目の前のオオダコと触手につかまっている1人の少女と2人の少年、それを助けようと拳を振るうツインテの栗色の髪の少女。


(あれは……)


【あの美少女とお知合いですか?】


(戦っているのが原作のメインヒロインの一人、主人公の幼馴染の栗原アスカ。物語当初はBランクの【怪力パワフル】の持ち主。あの見た目で物理とHPがメキメキ上がるから、プレイヤーからついたあだ名がメスゴリラ。序盤からいて愛着湧く人も多いから終盤のパテに入れている人が多い。ただ他のヒロインルートに行くときは一転してお邪魔キャラになる。好感度上がりやすすぎてな。捕まっている少年の内、気弱そうなのが主人公の天地カケル、他が親友のリョウとサキだろう。)


【なるほど。美少女二人を助けるべく、ズバッと解決しましょう】


「承知したわ。いくわよ!」




「このタコ、離しなさいよ!」


 アスカが乱雑にタコの足に拳を振るうも、衝撃が緩和されてタコ本体にダメージが届かない。Bランクのダンジョンとはいえ、4人もいれば命にかかわることはないと思ったらコレである。


「なんで【加速クロックアップ】が使えるアンタが真っ先につかまるのよ、カケル!」


「いや、さっきEXギアを海に落としたから壊れたし、不意を突かれたら無理だって。捕まったら足が速くなっても意味ないし……」


「相変わらず役立たずね。そんなんだから万年Dランクなのよ!」


「アスカ、痴話げんかはあとにして~」


「そうだ、助けてくれ~」


「サキもリョウも簡単に捕まっているんじゃないわよ。あんたらも戦いなさいよ。私と同じBランクでしょう!」


「手元に植物さえあればいいんですけど……」


「俺は自分を鋼鉄に変えているから、そう簡単には死なないぜ」


「あっ、そう。ならリョウはほっといて良いわね」


「つれねえこと言うなよ。友達じゃねえか」


「はいはい、私一人で何とかしないと……ね!」


 同じBランクと言っても、捕まっている二人はCランク寄りな一方でアスカはAランク寄りのレベル。スキル自体は強くても、要領が悪く決め手に欠けるカケルは典型的なDランク。4人で組んでもこうなることは中学でもしばしばあったが、なんとか切り抜けてきた今までとは違い、このボスはアスカと地形も相性もトコトン悪い。

 海の上を歩くために魔力を集めて歩いているが、魔力操作の類は苦手。自慢の拳は軟体相手だと効きにくい。相性最悪の相手に、恥も外聞もなく救援をすぐに要請した。


(Bランクダンジョンなら他校のAランクも食いつくでしょうし、命を落とすよりかはマシよ)


 即断できるのは高ランクの取得に必須のスキルであり、アスカはそれを持っていた。避けに集中しつつ、隙あらば反撃。ステゴロならそこいらのAランクにも負けないという自信のあるフィジカル。それがアスカであった。


「うわっ!」


「カケル!」


 そんな彼女の唯一の弱点である弟分のカケル。そんな彼を放り出されたら、思わず身体が動く。放り出されたカケルを抱きかかえると同時にタコの足が襲い掛かる。


「まずい!」


 自分の武器となる拳はカケルを抱きかかえたことで消失している。今からカケルを放り捨てても間に合わない。迫りくる足を睨め付けていると、誰かの砲撃が足を吹き飛ばす。


「誰!?」


「天に願いを唱えるのであれば、それを叶えるのは流星の役目!そう、私こそが噂のエクステラよ」


「うわ、この人。ナルシスト先輩と同類だ」


「初めてあった人にそんなこと言ったら失礼だよ」


【決まりましたね】


(引かれている気がするが……正直、このノリを演技するのはキツイ)


【何を言っているんですか。これがミステリアス系美少女です】


「エクステラさんって、あのエクステラさんですよね」


「私以外にエクステラがいるのかしら?」


「やっぱり。後でサインください」


「カケル、今はタコが先よ!」


「そうだけど、足を吹き飛ばされたことでリョウとサキを盾にしているし、どうするのさ」


「リョウは撃ってもそう簡単には死なないし、エクステラの砲撃に巻き込まれても大丈夫よ」


「死ぬ!間違いなく死ぬからやめろ!」


「ってなわけで、私とカケルが人質の二人を引き離すからエクステラが砲撃で本体に攻撃ってのはどう?」


「下位ランクの僕たちがタメ口をきいても良いのかな」


「構わないわよ。その作戦で良いけど、私がもっと楽にしてあげる」


(【接続案A】だ。補助は頼む)


【はいはい、任せてください】


 二人の肩に手を乗せたエクステラが二人の魔力に【接続】し、自身の膨大な魔力を流し込む。他人への一時的な魔力ブースト、それが【接続案A】だ。


「すごい力が湧いてくる」


「これだけの魔力……Aランクでも……エクステラ、貴女、何者なの?」


「私の星の執行者。それだけよ」


「はいはい、そうですね。先輩と同類でしたね」


【さっきから言われている先輩は美少女ですか?】


(違うが)


【興味なくしました】


(早いな)


 エクステラの脳内でこんな会話をしているとは思っていない二人は飛び出していく。


「待っててね、サキちゃん。【加速】」


 カケルがいつものように【加速】を使うと違和感を覚える。今までは単純なスピードアップだけだったが、今は音は置き去りにし、水のしぶき、その一滴すら見えるほどにゆっくりだ。そんな静止した世界で普通に動けるカケルはタコの足に向かってかかと落としを決める。すると、周りが動き出したのと同時にタコの足が切断される。


「切断できるとか聞いてないんですけど~」


 ドボン捕らえられていたサキと一緒に海に落ちる。それと少し遅れて、リョウが捕まっているタコの足に向かってアスカが鉄拳を放つと足そのものが肉片とならないレベルで吹き飛ぶ。


(この威力、強化なんて生易しいものじゃない。私の異能がもう一段階上がったかのようなレベル。エクステラ、貴女、何をしたの?)


 困惑した表情で落ちてくるリョウを抱きかかえるアスカ。そんな二人を見ながら、エクステラは隙のできた砲撃を放ち、タコの頭を吹き飛ばすと、ダンジョンのコアが現れてその輝きを失うのであった。


「このダンジョンコア、かなり大きいね」


「売ればかなりの大金になるぜ」


「でも……」


 アスカたちはエクステラの方を見る。ダンジョンで手に入るものは発見者に優先権がある。だが、救助された場合は当人たちの話し合いで折半しなければならないという決まりがある。今回はアスカ一人では3人を助けることができず、むしろやられてしまうリスクが大きかったこともあって、前例から考えてもエクステラに多めの配分、貴重なダンジョンコアを渡すくらいのことはしないといけないだろう。


「私には小さすぎるわ。私が狙っているのはもっと大きな獲物ですもの」


「もっと大きなものってAランクのダンジョンコアとか?」


「そんなものよりももっと大きなものね。だから、いらないわ」


「だからと言って、救援してもらったのにただ働きさせたとなれば私たちが困ります」


「そう? だったら、これは預かることにするわ」


「預かる?」


「そう、預かる。これからこの学園都市に大きな災いが来る。それを乗り越えるほどに強くなれば、このダンジョンコアは返してあげる」


「まあ、それで良いなら良いですけど……」


「だけど、今の貴方たちなら半分は死ぬわね」


「半分……」


「うそ……」


【本当ですか? 美少女が犠牲になるんですか!?】


「ええ、近いうちに二人」


「それは異能ですか? ここの生徒会長みたいな」


「ふふ、少ししゃべりすぎたみたいね」


「答えなさいよ」


「星は気まぐれ。時には消えることもあるのよ」


 そう言い残してエクステラの姿が消える。息するかのように自前で転移できるあたり、異能が無くてもAランクは堅い。今の自分たちでは追うことは不可能だろう。


「エクステラ……いったい何者なんだ」


 カケルたちがエクステラが消えた跡を見ながら、つぶやくのであった。

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