つま先 ~妻よりも先の関係、それはつま先~

夕日ゆうや

臭い関係

「妻よりも先の関係に進まないか?」

 夫の弓弦ゆずるは真剣な顔つきで訊ねてくる。

「なによ、それ」

「今界隈で流行っているんだよ。妻よりも先な関係、つま先って」

「臭そうね」

「臭いセリフ、好きなクセに」

「あれはドラマだから許されるのよ」

「でも俺がプロポーズしたときはかなり臭かったぞ?」

「ああいう、特別なときはいいのよ」

「本当かなー」

「ホントだってば! で、何が言いたかったわけ?」

「いや、つま先になれば、俺たちずっと一緒に居られると思ったんだ」

「つま先ってなんだか分からないわ」

「そりゃそうだ。でも恋人よりも夫婦の方が上がった感じがしないか?」

「なるほど。夫婦の上につま先があるのね」

 でもつま先って妻にしかない概念なのかな。夫先はないのかしら?

 むむむと唸っていると弓弦は苦笑を浮かべる。

「まあ、いいさ。いつでもつま先になっていいんだ」

「そうね。じゃあ、今日は夫婦で」

 弓弦はスパーリングワインを開ける。

「どうしたの? それ」

「今日は付き合ってから十年になる記念日だ。だからつま先になって欲しかったのだけど……」

「……そう言われたら否定できないじゃない。バカ」

「へへ」

「もう、つま先になってあげる。さ、飲みましょう」

「ああ。君の瞳にかんぱ~い」

「かんぱーい。って臭いな~」

 ちょっとつま先になったことを公開するわたしだった。

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