第11話

「”心ここにあらず”――――君は営業部の若手代表じゃないのか?得意先との貴重な話し合いもせずに猫ばかり目で追って何を考えている。ここに来れるのは当たり前ではないんだろ」


「は、はい!」


いけない、猫に気がいっていることがバレちゃった。

って、バレなければいいってわけじゃない。

またやってしまった・・・。


私は何のために昨晩緊張していたんだろう?

いつも猫がいない環境で商談するから、猫がいる環境が緊張や心配事が一気に吹き飛んだろうか?


一色さんも少しは見逃してよ~と思うけど、この人そういうところ許さない人っぽい。


私たちの様子が気になっているのか、森田先輩も私たちに視線を送りながらオーナーさんと話してる。


「お前もだぞ、清野」


って、私の他にも居たか。


「猫をよく観察するのも仕事のうちだろう?人間同士で話し合ったってこの子らが気に入ってくれなければ俺たちの仕事はなくなる。ほら、おいで」


清野さんが私に向って手を差し伸べる。

その動作にびっくりして私の体は一気にほてり出した。


あ、だめだ。

わたし、この人のこと、すごく好きになる気がする。


瞬時にそう思えるほど、彼に惹かれるだろうなと確信できる何かが私の中で芽生えた気がした。



「にゃ~~」


「痛った!」


キャットタワーにいただろう大きな猫が私の肩を足蹴にして床に着地する。


「そうそう、おいでおいで~」


・・・・・・そうだよね。

清野さんが急に私においでなんていうはずもない。

猫に言ってたのか・・・・大きな勘違いで顔を赤くしてしまった自分が恥ずかしい。


清野さんが急に顔をあげてもう一度私をみる。

嫌だな…猫だけ見てくれてたらいいのに…。


ほんの一瞬だけ口角をあげて微笑んでいるように見えた。


「―――――――‥」


何かを呟いたようにみえたけど、私に言ったのかはたまた後ろにいるであろう猫に言ったのか…。


どちらにせよ、そのしぐさは猫が主人に甘える時に使う”サイレントニャー”によく似ていた。

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