第9話

「角谷さん、いつにも増して顔が強張ってるよ。緊張してる?」


部署の先輩にそう言われてもおかしくない自覚はあった。


自分だってこの表情が普通じゃないことぐらい分かる。


営業まわりの時はいつも緊張しっぱなしで先輩方々に失笑される。



口元は自然な笑顔を作ろうと上がってはいるが、不気味なピエロか日本人形の笑顔に近いものがある。


初めての部署以外の人との顧客周りで、尚且つエリート揃いのお偉いさんたちと一緒になるのだ。



”自分が彼らのお世話や気配りなどを怠ったり失態でもしでかして営業部の評価を下げたらどうしよう?”


――――――または


”やっぱり営業なんものはこちら側(開発部)の思惑なんて全く把握していないとかさ、思われるかも・・・だよね?”



そんな不安に永遠と脳裏を支配されてしまってこの(顔)ザマである。




「・・・・開発部の一色と清野です。今日は宜しく。」


聞えてきたのはそんな男性の声。



言葉遣いは普通だけれども、どこか感情を込めないような言い方が冷たく感じてしまう。


先に名乗ったのだから言葉の主は一色さんなのだろう。


見れば表情も”無”を具現化したような感情を込めない表情だった。



「すみません、一色は仏頂面がよく似合う男でして、いつもこうなんです。特に怒っているとかではないので」

いつの間にか強張ってしまった私を安心させるように優しい声が響く。


―――なんか、どこかで聞いたことがある声かも・・?


目をやれば物凄く整った顔が目に入る。


ドキン・・・



心臓が騒ぎ出す。

あの時と同じ、また目が合った。



私に向けられる目や表情はとても優しく

そして何よりも美しい。


ほんとう、この人は綺麗な顔をしている。


男の人なのに、なんかズルいな。

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