第8話
”イケメンかどうかなんて一番どうでもいい。そんな思考で仕事してねーから”
言いたいけど言えない言葉。
言ってしまったら何かが大きく変わってしまう気がするので黙っている。
「チャップちゃーん!」
「またぁ?もう、付き合ってらんないから先行ってるよ」
「うんうん」
千明の方を見ないで返事をする。
最近こうやって彼女から逃げることも多くなったかも。
だったら誘いに乗るなって話だけど。
彼女との付き合い方を少し見直した方がいいのかもな。
最初の時は楽しかったけど、最近はマイナス思考になりがちだ。
チャップ様が私がいる窓の側まで来てジャンプをしてくれた。
口が開き鳴いているようにみえるが、声はあまり聞こえない。
「ふふっ、サイレントニャーしてるみたい」
子猫が母親に甘えるときにする仕草。
口は鳴いているのに声が出ない“無音の鳴き声”に見えて堪らなくなる。
ああ、このガラスが無ければモフモフナデナデできるのにな。
チャップ様はしばらくの間私のことを見上げていたけれど、ストンと降りて遠くのキャットタワーまで行ってしまった。
さて、そろそろ戻ろうか。
今日の午後からは幸運なことに車で移動できる。
アポどり出来たのが少し遠いところであることと、こちらからの人数が多く電車移動では中々困難を極めるからだ。
なんたって、開発部のお偉い様方もご一緒するのだ。
その恩恵を私たち営業部もあやかることとなった。
今回は都内に何店も出店している猫カフェのオーナーと今後の商品開発についてのご意見やアドバイスをしてもらうことになっている。
以前、そんなに偉い人だと知らずに猫話に花を咲かせて仲のいいお得意さまになっていた。
そんな事もあってのことなのか、部署の先輩と開発部の方々数名と一緒に訪問させて頂けることになったのだ。
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