第31話

「佐竹瞬です、宜しくお願いします」

「・・・・・もやしっ子だでや」

「?」

「ああ、気にしないで、タケ。おじいちゃん目が腐ってるから」

「なんじゃと!おめえも悪いべや!いつまでも家におらんと、嫁さいげ!あー、目が悪いがらいい男も見つけらんねぇが!?」

「目ぇ悪くないですぅ~。鳥目なだけです~」


バイト前に挨拶に来たら、早々に先輩とおじいさんが喧嘩を始めてしまった。

居間には俺と爺さんと、先輩と、あと二人の喧嘩をみてニコニコしているおばあさんがいる。


大人げない言い合いは収まることがない。

なんだ、先輩って結構元気じゃんって安心していた。

でも、どこか寂しい気もするけど。


おばあさん、おじいさんが好きなのかな。

ずっと、いい笑顔で見守ってるよ。


でも、このおばあさんって先輩の話だとすごく怖いって聞いてたんだけどな。

なんだか印象が違う。


「お義父さん、もうその辺にしてください。美優も、いい加減にしなさい。佐竹君いるの忘れてるの?」

「あーーー、そうだった。ごめんタケ」

「いいえ」


忘れてたのかよ・・・。

まあ、空気のように俺がそばに居ることが自然になったと、いい方に解釈しよう。


「美優の母です。宜しくね、”タケ”ちゃん」

ちゃん・・・


お母さんも天然か。

でも顔は先輩に激似で可愛らしい顔立ちをしている。




そんなことをぼやっと思っている時、玄関の開き戸が思いっきり開く音がして、背筋が伸びる。


多分、噂に聞く”修二”さんだろう。


居間のドアがすごい勢いで開く。

そこから熊みたいな大男がムスッとした表情のまま入ってきた。


「修二、コンブのおがまり(陸廻り)ふやすがらな」

「・・・・・電話じゃなくて見てから判断すれや」


おじいさんに声かけられた修二さんは奥さんに返事を返していた。


「だって、潤君の紹介だもの、断るの悪いでしょ?」

「・・・・何でもいいじゃ、コンブだけだべ?」

「まだ、高校生だもの、あなたの船に乗せるのはダメよ」


なんか、俺ってあまりいい働き手に見えないみたいだな。

まあ、実際そうなんだろうけど。


「ごめんね、タケ。失礼な事ばかりで」

「いや、別に。それが当たり前の反応でしょう」


こんな時、いちいち表情に出したら気持ちの弱い人間だってバレる。

バスケで培った能面顔がここで役にたったみたいだ。



「飯、食ってくか?」

「え?」

「帰ったら、母ちゃん飯作って待ってるのが?」

「いえ、母は今違う街に住んでいるので」

「――――んだら、食ってけ」


修二さんは俺にそう言い残すと、ずんずんと歩いて奥のほうに消えていった。


「あら、珍しい。きっとタケちゃんのこと気に入ったのね」

「そうなんでしょうか?」

「あの人はね、一度ダメって思ったらダメな人だから」


返事はせず軽くうなずくだけにした。

じゃあ俺は第一審査通過ってところか。

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