第29話
それから色々な場所に連れ出した。
ほっといたら、仕事場と家の往復だけになる気がして。
どこに行きたいだろう?
そんなことを考えるのも楽しかった。
先輩はこのバイクに乗って、奴とどこに行きたかったんだろう?
そんなことを考えながら行き先を決めていく。
聞いてもどこでもいいよって言うしさ。
「ワザとでしょ」
「―――何がですか?」
「しらばっくれちゃって」
先輩がよく話してくれる昔話には必ずと言っていいほど奴を含む幼馴染たちが出てくる。
どこで誰とどんなふうに遊んでたとか。
小学校時代の彼らは一番のピークといっていいほど濃い時間を過ごしてきたんだろう。
俺にはその感覚がいまいち分からないけど、その場所に連れて来るたびに懐かしむよな言葉を口にするけど、悲しそうな表情をしていた。
「ドラムって辞めちゃったんですか?」
「辞めてはいないけど、仕事で疲れているし、世代交代っていうか・・・ね」
村にあるバンド練習小屋近くをバイクで通りかかり、聞いてみた。
スピードを落として耳を澄ませば誰かが楽器を奏でる音がした。
「今は中学生と高校生の場所だからさ、私が一人でふらーっと寄って使うのは申し訳ないよ」
本当に?
社会人になっても使ってる人はいる。
最近話すようになったここの人たちから聞いていたから間違いはない。
「さぁーてと、もう少しでおじいちゃんの昆布始まるなー」
「ああ、それ、俺も手伝いに行きます。」
「何言ってるの?やったことないでしょ?」
「ええ、でも”経験なしでも大歓迎”っていう募集の広告を見つけて、”たまたま”先輩の家だったんですよ、ワザとじゃないですよ」
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