第28話
「今年三年ですし、先のことを考えたら忙しくなりそうなので」
「そっかぁ、タケは頭よさそうだもんね。大学受験とかあるもんね」
大学は多分無理だろう。
バスケをやめてしまった俺にあいつら(親)が金を出す意味がない。
「進学か就職かはまだ決まってませんけどね」
「でももったいないねー。でもタケが辞めたらみんな困るんじゃない?運営丸投だったでしょう?」
「そんなこと、ありませんよ。僕である必要はありません」
「まあ、そうだけどねー。―――でも、なーんか、タケらしくないなー」
今のおれにとっては先輩以外のことはどうでもいい。
ドラムを頑張っていたのだって彼女と一緒に居られるからだ。
「一度引き受けたらやめられない性格ですけど、将来のことは背に腹を代えられませんから」
「まぁ、そうだよねー。私は就職先がほぼ決まってたからお気楽に最後までやってたけど、進学する人は早々と引退してったもんねー」
先輩は行きつけの楽器店での就職がぬるーっと決まってた。
少しボケが入った店主のおじさんに「いつからここに来れるんだ?」といわれ、働く気になったらしい。
「タケはねー、なんか弁護士っぽいの似合いそう」
「っぽいって、自分そんなに頭よくないですよ」
「これっていうの決まってるの?」
「まあ、何となくですが」
安定している職に就きたい。
先輩が好きなこの街でできるしごと。
となればその先は見えていた。
「先輩はずっとこの街にいるんですか?」
「まあね」
「札幌とか、行きたくないですか?」
「なんだかんだ言ったって田舎好きなんだよね。それに都会は―――何となく苦手。」
とかいって、奴と鉢合わせるのが怖いだけだったりして。
「バイクみて、思い出したりしますか?」
「――――何を?」
しらばっくれちゃって。
「ああ、翔?あんま印象ないかな?」
「印象がない?」
「高校はいってからあんま接点なかったもん。いつの間にやら買って乗り回してたよね。その頃は友達変わってたし、遠巻きに見てるだけで何も思い入れはないよ」
なんだか以外。
俺の知らないところで何度も後ろに乗っていると思っていたのに。
「このバイクに乗ったのはタケとが初めて」
「・・・・・・・・・・・」
おれとが、はじめて?
「あれ?タケーーー?おーい」
「・・・・・・・」
「壊れちゃったの?どうしたんだよー、おーい」
先輩が視界に入り手を振っているのは見える。
けど、今は何にも反応したくなかった。
”タケとが初めて”
なんだか、その響きが嬉しくてまたバイクに乗せたくなる。
「もうひとっ走りしましょう?」
「ええ、もう寒いよう」
「俺のジャケット貸しますから。あと手袋も買ってきましょう。」
渋る先輩の手を引き店を出る。
俺のジャケットを羽織らせたら大きいって文句をつける。
手袋も一番安いのでよかったのにってブツブツ言ったけど、そんなのも全部ひっくるめて彼女のすべてが愛しく思えた。
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