第26話
「ぎゃははは!!!」
それから何日かしたある日の朝、目障りな声が生徒玄関に響き渡っていた。
生徒玄関に入るやいなや響き渡る馬鹿っぽい笑い声。
あの男は双子の弟だけど、違いなんて一目瞭然。
騒がしい、大声で笑う、馬鹿っぽいヤツと一緒で服装もだらしがなく、私服のときも多い。
兄の方は寡黙というか、おとなしい人で似ているところといえば顔と背丈くらいか。
だから、違いがすぐ分かる。
「『くどう かける』先輩、ちょっといいですか?」
「―――――おう」
初めて声をかけた。
以外にも驚くことはなく、まるでこうなることが分かっていたかのように落ち着いていた。
始業チャイムが鳴る中、人気のない部室まで歩く。
「『真面目なタケ』、いいのか?サボって。チャイム鳴ってるぞ」
「そんなの、どうでもいいですよ」
こいつは人の気持ちを逆なでするタイプの男だと改めて思う。
部室に入るや否や、先日のことを非難した。
先輩の気持ち、気が付いているはずだ。
俺には感情を隠すけど、こいつの前では偽ることができないのだから。
なのに、目の前の男は全然見当違いなことを言ってくる。
「ごめんな、タケ。―――あいつ守ってくれるか?」
こいつは何を言ってる?
俺の話聞いてたか?
去るやつが、わざわざ彼女みせにきて浮かれるんじゃねーよって話してたはずなのに。
それに、さっきからニヤニヤしながらスネアヘッド撫でやがって。
先輩もよくやるしぐさだから余計に腹が立つ。
これ以上何を言っても時間の無駄だ。
急に馬鹿らしくなって部室を出ようとする俺にまたもや見当違いなことを言ってきた。
「そうそう、『絵里ちゃん』にも、よろしくな。彼女さんなんだろ?みゆから聞いてる」
絵里はいとこだ。
昔から何かと俺を心配してくれる叔母の一人娘。
前に一度先輩と買い物しているときに会って、彼女だと勝手に勘違いされたことを思い出す。
そうなんだ、先輩は勘違いが過ぎるし俺の気持ちにも気が付かない。
人のこと心配しているようで的外れなところばかり推測するところが彼女らしくて噴き出してしまった。
「おれ、絵里のことを彼女だなんて、ひとっ言もいってないんですよ?勘違い凄くないですか?————『普通』だったら、俺の気持ちに気づきますよね?」
なんでこいつに共感してもらおうと思ったのかわからないけど、気が付いたら口から出ていたセリフ。
言ったそばから当時のことが蘇ってきてまた笑えてきた。
そうしたら奴もそうなんだよなとか言いながら笑ってて。
なんで、こうなっているんだろ?
俺はこいつのこと嫌いで嫌いで仕方なかったというのに。
辛かったはずだった、こいつに勝てなくて悔しかったはずだった。
こいつのことを考えるだけでムカつくはずだったのに、今はそれも忘れるくらい笑えてしょうがなかった。
不可思議な男は何を言い出すのかわからない。
俺に最後の頼み事と忠告をしてこの街から旅立っていった。
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