第25話

またもや自分が先輩にとって何もしてあげられない存在なんだと自覚する。

心が空虚感でいっぱいになるのはこれで何度目だろうか?


しばらくの静寂が続き、俺と先輩以外の音が聞こえ始めてきた。


廊下を走る陸上部の掛け声や、吹奏楽部のロングトーン合奏もうっすらと聞こえてくる。


それらに聞き入っているときに先輩が急に叫びだしたから、驚いた俺は体をびくっとさせてしまった。


「あー!思いっきり甘いもの食べたい!ちょっとくらい太ってもいいや!あ、ねえねえ、せっかくだしいつものところに行かない?おごるからさ!―――あ、ごめん、タケは忙しいよね」


びっくりした…。俺はこういう不意打ちが苦手なんだ。

「行きます、もう帰ろうって思ってたんで」


作りかけの資料なんてどうでもいい。

こんなにもそばに居たいと思う気持ちのほうが大事だ。


いつものように自転車の荷台に乗ってもらう。

背中に摑まるように促したけど、いつもと同じ答えがかえってきた。


「大丈夫、そんなヤワじゃないから」


こんな日でもいつも通りの先輩に苦笑いが出そうになる。


「日が長くなったよね~。前は夕方の4時ったら暗くなってたのに」

「もう、三月だからじゃないっすか?」

「そうだね~、もう三月なんだもんね~。なんか早かったな~、高校生活」

「―――特に楽しかったことって何ですか?」

「えーなんだろうな?普通に修学とかじゃない?」


何気ない会話をしつつ、駅前に向う。


こういうことも、これが最後なんだろうな。

そんなことを思いながら先輩と自転車に乗り、夕焼け空の色に染まった街を駆けぬけた。

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