奴の幻影

第22話

でも、そんなある日のこと。

先輩の現実逃避が実現するようになっていた。


地元の幼馴染と高校生になってから遊ぶ機会が減ったなんて言ってたくせに、また集まりだしているらしい。


なんだか分からないけど、声をかけて集めだしたの工藤翔らしい。


なんの風の吹き回しだ?

いつかの女と二人で歩いているところを何度が見かけていたから、正式に付き合ってるんだろうと思っていたのに。


いや、待てよ。

二人っきりで歩いてるからって、付き合ってるって保証ははないよな。

じゃあ、その女は遊びで、今さら斎藤先輩を狙ってるとか?


わからない、奴の考えていることが。


「タケごめーん!急に集まって遊ぶことになってさ~、今日の練習付き合えなくなっちゃった」


奴の考えもわからないけど、先輩もわからない。

あれだけ責任感があって役割をきちんとする人だったのに、最近は部活そっちのけだ。



「先輩たちも引退だからさ、俺たちがやれってことじゃん?」


同年代の部員はそんなことを言い出す。

まあ、間違ってはないけど。


クリスマスイベントも終わったいま、三年生が部活にくる義理はない。


新しい部長だってもう決まっている。


「おれ、もう辞めようかな」

「何言ってんだか!しっかりしろよ!副部長!」


そうなんだ。

なんとか部長の座は避けてもらえたけど、俺は副部長になっていた。


音楽経験が浅い俺にはそれでも十分に重荷だった。

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