第21話

彼女の世界に入り込む。


もうどっぷりと。



個人練習をコツコツと積み上げるのは昔から得意。


そんな中でも先輩のサポート役を率先してやっていた。


なので先輩のセッティングに関することは俺の右に出る者はいない。



椅子の高さ、スネアのセット位置、タムからシンバルの配置、重なり具合。

全部が頭に入ってる。



「すっごーい、直すところないんですけど!タケ!ありがとうね!」



本番前の先輩にそういわれるたびに嬉しくなって、彼女の一番の理解者になった気分になる。



「手足が短いからさ~、よくあいつに馬鹿にされてねー。”お前の後はセッティング一から直さないといけないから面倒くせぇ”とかって、私のバンドを最後にするんだよーひどくない?」


先輩には俺の気持ちなんてわかるはずもないからしょうがないけど、何が始まりでも奴に会話がつながるのが嫌だった。

ふとした時に話すのは奴との思い出話ばかり。



とても無邪気に昔を語る。



今はその”奴”に声もかけないくせに。


遠くからただ見つめているだけのくせに。



先輩は昔のいい思い出だけを脳内再生しているように見える。

まるで現実の世界から逃げているようだった。

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