第20話
二人の会話に圧倒しつつも足りない部品を見繕ってもらい店を後にした。
「今日はありがとうございました。先輩がいてくれなかったら普通のものを定価で買うところでしたよ」
「ねー!本当に運がよかったね!タケ!」
「――――はい」
俺にだけ向けてくれているその笑顔。
こんなことが永遠に続けばいいのに。
いつもは部室にあるボロボロのスネアを使っていたけど、今日の練習は新しいものをセットする。
一番安いソフトケースも付けてもらったのでチャックを開けて中身を取り出したら解放されっぱなしのスナッピーがシャラシャラと音を鳴らした。
この音が何となく好きだ。なぜかはわからないけど。
メンバーとの練習を終わらせてから個人練習しようと残っていた。
先輩はそれに付き合うと言ってくれて、またもや部室に二人きりになる。
「さあ、いくよ~」
電子メトロノームの音がピッピっと規則的なリズムを刻むのがイヤホンから聞こえてくる。
それに合わせて先輩がステックを叩いてくれるのでリズムを聞きながら課題曲に取り掛かった。
アコーステックドラムはただでさえ音が大きいから、こうしてくれないと聞こえなくなるんだ。
もたついたり走り過ぎないように先輩が刻んでくれるリズムに乗っかる。
すこし上手くいかないところもあるけど、前よりは良くなっていると思う。
何となく反応が気になって彼女の方を見た。
俺の成長をいつも喜んでくれるから。
先輩はいつものように優しい眼差しで俺を見守っていた。
俺も少しだけ口元が緩みそうになるけど、意地で我慢する。
あいつに気持ちがあるうちは、気持ちを悟られたら負けだって。
何となく、自分ルールを作っていた。
「タケは運動神経いいよね?」
「急に何ですか?」
「凄く覚えがいいからさ。運動神経がいい人って脳で考えたことが身体に伝わりやすいんだよね。伝達の速さがいいっていうか、スムーズって言うかさ」
「はあ」
運動神経は悪くない。
昔から体を動かすことは得意だった。
でも、それだけではない。
先輩に一目置きたい気持ちがあって努力しているからだ。
そんなことも言ったら負けになる気がするから言わないけど。
「私はあまりいい方ではないし、一旦深く考えすぎちゃってダメなの。だから感覚的に動かせる人って羨ましいんだよね。本能で叩いちゃうっていうかさ」
『それは誰?誰のことを言っているの?』
って、心で思うだけで口には出さない。
きっと奴のことだろうから。
二人しかいないはずなのに、奴の話題があがらない日がない。
悔しいけど聞き手に徹する。
敵を知るには何とかっていうだろう?
俺がこの人を手に入れるためには彼らの歴史ることから始めなければ。
そう思っていた。
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