第19話

「まったぁ!アンタは!売れないもので小遣い稼ぎしてるんじゃないよ!」


俺と先輩の背後にいるだろう人をみて店主は罰が悪そうな顔をしていた。



「ごめんねぇ、それはだいぶ昔にセットについてきたスネアドラムでね、買主が要らないって置いてったやつなんだよ。あまりいいモノじゃなけど、欲しいならあげるよ。ヘッドと錆びついてるボルトを新品に変えたら十分につかえるだろうさ」



なんともメシウマな展開になった。


交換部品を買うので実質タダとは言い難いが、それでも数千円もしない。



「このメーカーのボルトなら合うの持ってるよ。」


先輩がそう言ってくれたので更に購入資金が浮くことに。



「いや~!すっごい得じゃん!古いけどほぼ未使用だよ!この時代のはさ~作りがいいんだよ~」


俺の何倍もの笑顔だろうか?

目の前で自分のことのように喜ぶ先輩の姿に心が奪われる。


どれだけ人がいいんだろう?

こういう人だから尚更惹かれちゃうんだよな。




「よかったね!タケ!って、あれ?」


「・・・どうかしましたか?」


「タケの笑顔、初めて見た気がする」


「笑顔?―――そうでした?」



家族と一緒に住んでいた時期は面白いことが無かったから笑うって感覚を忘れつつあった。


卑屈になっていたのか、思春期のそれなのか分からなかったけど。


でも、離れてから徐々に表情が豊かになったねって従妹には言われていた。


まあそれでも、同級生に言わせれば笑ってるってのには程遠いらしいが。

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