つま先を絡めた冬を過ごした夜
春木のん
幼児〜小学校低学年の頃
祖母のつま先はいつも冷たかった。
肉も脂肪もあまり無い骨張った祖母の足は、普段は白いストッキングと足袋に覆われている。
食堂を開けに行くときも、百貨店に買い物へ行くときも、祖母は常に着物だった。
祖母専用の鏡台の前で、半襟のついた長襦袢を着て、着物を羽織り、帯を締め、様々な紐を巻き付け固定していく。
美容室で結い上げた髪も、アメリカピンとU ピンでとヘアスプレーで、しっかり固定されていた。
元々白い肌がさらに白くなるほど、額の生え際から首までしっかりファンデーションを塗って、黒の眉墨で太めの眉を書き、真っ赤な口紅と紅筆を使って輪郭をしっかり書く。
完璧な昭和の淑女。それが祖母の外での武器だった。
だから一緒に暮らす家族の、更に一緒に風呂に入って同じ布団で寝る幼児の自分しか、本当の祖母のことを知らなかった。
帯と紐でぎゅうぎゅうに締め付けられた身体は、血行が悪い。一人で食堂を切り盛りしていたため、トイレに行く回数を減らすため水分をあまり取らなかった。加えて、朝から晩まで広くない食堂の中を立ち歩く仕事は、祖母の腎臓や膀胱、血管にずっと負担をかけていた。
祖母が食堂を閉めて、着物から洋装に変わっても、祖母のつま先はずっと冷たかった。
羽根布団の上に丹前を掛けた布団の中でも、祖母の身体はなかなか温まらなかった。体温の高い子どもの自分は、天然の湯たんぽだったのだろう。ヒヤリというより更に冷たい祖母のつま先と、自分のつま先が触れるとドキリとした。冬の露天風呂で、凍ったところを踏んでしまった感覚に近い。はじめはピタリと肌を密着して、そして時々向きを変えて、自分の熱が祖母に移って、馴染んでいくまでその行為は続いた。
つま先を絡めた冬を過ごした夜 春木のん @Haruki_Non
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます