第3話 復讐者
見境なく生きていたい。
死ぬのは怖いし、殺されるのはもっと怖い。どんなに汚くとも、意地汚くとも、泥臭くとも、ヘドロを啜ってでも生きていたい。
死を嫌悪し、他者を信じず、己のための生への執着を捨てきれない私はある日、人喰いの鬼になっていた。
人間こそ羅刹であると、師父は言った。
金、権力、ありとあらゆる、百八では到底足りぬ欲と煩悩に取り憑かれた獣。いっそ猿の方が合理的である、とそう言って、人間の手で心臓を抉られて死んだ。
忘れるものか、忘れるものか。
焼け落ちる屋敷、燃え尽きた拝堂からかき集めた師父の遺灰を、未だ銀のペンダントに入れて提げている。
何もかもを殺し尽くし、喰らい尽くす。
師父が死んで、私は再び鬼の階段を進む。復讐鬼という外道の手段さえ厭わぬ私を止められるものなど、もう、いない。
元旦。初詣で賑わうある神社で、気化爆弾が炸裂した。死者行方不明者は二〇〇〇人を超え、史上最悪の爆弾テロに、ニュースサイトは連日賑わっていた。
その数日後、帰宅ラッシュの航空機でやはり爆弾が炸裂。夜には新幹線で神経ガスが散布された。正月休みだけで合計三〇〇〇人が死んだ。
すべて、鬼の仕業だった。
彼女は海外のゲリラに師事して徹底的に「破壊と攻撃」を学んだ。今時爆弾や神経ガスなんてネットショッピングとホームセンターを駆使すれば簡単に手に入る。
偽名の戸籍を買うことも反社と渡りをつければ困難ではなく、警察は彼女の足取りを掴めず、世間は現場に残された四つ目と二本角の鬼の金属カードから、「オウガ」という名でそのテロリストを恐れた。
そしてとうとう、ある冬の終わり。オウガの音沙汰がなくなっていた頃、東京タワーに航空機が衝突した。
のちに2.11と呼ばれる、日本における最悪のテロであった。
鬼はその後も虐殺の限りを尽くし、合計で一二二万六八〇〇人余りを殺害。
彼女はある日突然動画サイトに顔を出し、「畜生ども、お前らの仇はここで満足と虚無を抱え消えるのだ」といって、切腹した。
動画サイトは即座に動画を削除処分していたが、録画映像はたちまちネットの海に流れ、人々は鬼の満足しきった虚無の笑みを、憎悪と嫌悪を込めて、「現代妖怪図」と読んで、ひたすらに悪口雑言を叩きつけるのだった。
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