第2話 ハロー、ロストプラネット

 反陽子エンジン式の超大型人工惑星型移民船団「クレイドル」は現在、地球から八九億光年離れた宙域を航行している。

 死のウイルス「ドローム・マーダー」によって地球が滅んで八〇〇年余り。残された一億人の人類はこの船の中で生活し、旅をしている。


 船外カメラが撮影した映像をスクリーンに投影した展望室で私がハイカロリージェルを啜っていると、先輩クルーのジョウ・カゲジマがやってきた。

 休憩時間とはいえ先輩だから立ちあがろうとする私をカゲジマ先輩は「いいって」と言って、隣に座る。


 宇宙には無数の星々が散っている。私たちはあのどれかに安住の地があると信じて旅をしている。本当に長い、途方もない旅路だ。

 いつかこの船が隕石と衝突するかもしれないし、どこかの未知の宇宙線でおかしくなる可能性もあるし、根本的な資源不足に陥る可能性もある。


 私は船外クルーとして働いている。過酷な仕事だが上級職であり、順調にいけば将来は閣僚の座を約束されている。

 だが大抵はトラブって宇宙を漂流するハメになったり、強烈な勢いで飛んできた小石が運悪く船外アーマーの関節部を破壊してそのまま酸素を失って気圧差で破裂したりする。


 それでもなお私がこの仕事を選んだのは宇宙を見たかったからだ。私たちを途方もない間抱きしめてくれたこの暗闇を、私は愛していた。

 宇宙に恋しているというとロマンチストじみているが、決してそんな格好のつけた理由ではない。


 輝く星、消える星。


 ハロー、ロストプラネット。

 四十六億年の命の揺籠でいた気分はどうだった? 久しぶりの独身生活を楽しめてる?

 私たち人間は、生き物は、親離れにずいぶんかかったね。

 ありがとう、地球。命の揺籠。

 あなたが育んだものを、私たちはどうにか次世代に紡いでいくよ。

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