漢字ドリル

@SUZUmachi_

漢字ドリル

 小学3年生の1学期、母が入院する事になり、学校を1週間ほど休み母方の祖父の家に泊まった事があった。担任から1週間分の宿題も渡された。


祖父母は畑仕事をしていたりで昼間はおらず、家の中は振り子時計の規則的な音が響き、外では鳶の鳴き声がした。


周りは田んぼで3時間に1台、家の前を車が通る音が聞こえるだけの静かな家だった。


宿題をやる以外は母のゲームボーイで『メトロイド』や『マリオ』のソフトで遊んだりもした。やがてゲームもある程度クリアして、宿題も残す所は漢字ドリルだけになり殆ど暇になった。その日は居間で祖父が目の前に座っていた。


ゲームばかりしていると注意されるので、漢字ドリルでもやろうと思い手をつけた。ドリルは数ページだけやれば良かったのだが、人に見られていると思うと少しプレッシャーがあり、ちゃんとしないと!と思い集中していると気づいたらドリル一冊をやり切ってしまった。

小学3年生で習う漢字は全部で200字あり、1学期は95字を学習するらしい。


つまり半分に近い字数を1学期中に学ぶ事になる。本来、国語の時間に約3ヶ月に1冊ペースでだらだら進む漢字ドリルを数日で終わらせてしまった。


そして京都に帰省した。数日でやり切った事を先生に褒められるかと思っていたが、勝手に先に行くなと怒られてしまった。


「この部分、職員室でコピーしてきて。」と持たされた漢字ドリル片手に教室を出て、扉を閉めた。扉を隔てた先生の声が背中越しに籠って聞こえる。ここは2階、職員室は下だ。


廊下は静かだった。祖父も静かだったが音があったし、温かかった。授業中の廊下は静かで、冷たい。


まあ、先生視点だと指定しているペースを守らないのは困るかもしれないが、一言「頑張ったね」くらい言われたかったと思い、階段を降りた。


緊張しながら「失礼します」と職員室に入ると授業時間に入室してきた児童を不思議がる数人の先生たちの目がこちらを向いた。


コピー機の前に立った。スキャンする時に出る緑色のライトが綺麗で、プリントは印刷したての温かくて甘い匂いがした。

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