ジェネシス零部隊:報告書
月薔
プロローグ:結成
──薄暗い地下。看守たちの冷たい靴音が響く。
「あの女を解放するなんて、正気かよ?」
「仕方ねぇだろう。国が決めたことだ」
不満気な声と宥める声がゆっくりと、ひとつの牢の前で止まる。ここ、ローレスネ監獄の地下牢は、特に凶悪な犯罪を犯した死刑囚が収監される場所だ。この場所では看守による私刑が黙認されており、ここに収監された者のほとんどは過激な拷問のよって刑が執行される前に発狂するか、舌を噛んで死ぬかのどちらかだった。
しかしこの牢にいる人物は、発狂することも自死を選ぶことなく生き永らえている非常に強固な精神の持ち主だった。
「おい、気をつけろよ」
「わかってるさ」
看守たちは慎重に扉を開け中に入る。鉄の扉によって覆われている上に窓のない牢は真っ暗で、目が慣れるのに少し時間がかかる。ようやく目が慣れてくると、囚人の姿が闇の中に浮かび上がった。
先ほども拷問を受けたばかりで気絶しているのだろう、俯いていて顔は見えない。
「おい、起きろ!」
看守のひとりがバケツの水をかける。ビクリと身体を痙攣させた後、囚人がゆっくりと顔を持ち上げた。伸び放題の前髪から、荒々しい憎悪の籠った鋭い目が覗き看守を睨みつける。その視線に思わず後退りしながらも、囚人に近寄り両手足につけられた鎖を壁から外すと、新しい鎖で両腕を拘束した。もうひとりの看守が、囚人につけられた首輪から伸びた鎖を壁から外し手に持った。
本来は首にまで拘束具をつけることはないのだが、この囚人は特別凶悪かつ凶暴だったために特別措置がとられていたのだ。
「喜べ、出所だ」
看守の声に囚人は一瞬どこか訝しむような様子を見せたが、すぐに無反応になった。
「チッ、相変わらず君の悪い奴だ」
「おいよせ! あまりこいつを刺激するな」
この囚人はかつて政府、そして自分の所属していた組織を裏切り、敵組織に情報を流していた反逆者だった。情報を流すだけでは飽き足らず、多くの仲間を虐殺した。当然ながらその実力は凄まじく、一度彼女が暴れた際に看守たちが死にかけたこともある。看守たちは囚人を引っ張りながら一階へ登るエレベーターに乗り込む。エレベーターを降りた囚人は、窓から差し込む光に目を向ける。
約25年ぶりに、囚人は光を見た。
***
「僕は反対です、ダリルさん」
「ボクも反対」
いつになく強い口調で告げるリュシルとシエルに、ダリル・アークエットはため息を吐いた。
ダリルは若くして
ジェネシスとは、数十年前に突如として大流行したウイルス、通称“穢れ”による事件、テロ行為への対処等を目的として結成された組織だ。穢れに感染した者は、最初は精神的な凶暴化、もしくは感情を喪失する。そして感染が進むと異形の怪物に変貌してしまう。このウイルスには魔力療法が効かず、また魔力持ちは空気媒体で感染しないということがわかっていた。流行から数十年が経った今でもこのウイルスについては解明できていない部分が多く、このウイルスの研究もジェネシスの活動内容のひとつだった。
今ダリルの目の前にいるリュシルとシエルは双子であり、ジェネシスの隊員だ。13、4歳ほどの幼い外見をしているがそれぞれが優秀な隊員で、人柄も真面目で優しくダリルが最も信頼を置いている部下の内のふたりでもある。
普段は内向的で控えめな双子なのだが、今回ばかりはそう簡単に納得はしてもらえないだろう。
「ふたりとも、どうか認めて貰えないだろうか。“アレ”をローレスネから解放するには、今しかないと思ったんだ」
穏やかな声でリュシルとシエルに頼むのはアヤト。同じくジェネシスの隊員でダリルの友人でもある。
「・・・・・・まぁ、アヤトさんが言うなら」
リュシルの言葉に、シエルも頷く。アヤトが頼んだ途端にあっさりと受け入れたのは、この三人が長い付き合いの友人同士だからという理由だけではないだろう。
「・・・・・・まぁ、それじゃあ、ふたりも頷いてくれたことだし。今日から君たちにはジェネシス
リュシルとシエルは渋々といった様子で、アヤトは相変わらず穏やかに頷く。今度報告に来る時は、ここに彼女の──カズの姿もあるだろう。その時の様子を頭に思い浮かべてダリルはひっそりと微笑んだ。
ジェネシス零部隊:報告書 月薔 @Yuina1903
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