第二十六話『お前は独りじゃない』

「ありゃりゃ、コレは派手にやったねぇ。確かにこれは普通の治療じゃ一日で治らんね。はい。」


「……これが、メディカルカプセル?」


「そうだよ、このカプセルはどんな傷だって直ぐに治す無敵の薬。効果が強いし貴重性も強いから、団長さんが許可を出さないと使えないんだ。」


半信半疑で一粒飲んでみた。

────元気が溢れてくる。

体の痛みが徐々に消えていく。と同時に力も戻ってきている気がする。


「な、なんだこれ……!」


「どうだい?力がみなぎってくるだろ?」


「あぁ、最高だ。今までの疲れや力が戻ってくるかのように最高の気分だ。」


「それは良かった。じゃあ、これからも頑張ってね。」


自動ドアが閉じた。

どうやら彼女は認定試験専用の治癒術師らしく、普通に見た目は可愛かった。


「────ふう、」


自室に戻った。

俺の体の疲れは取れても、心の疲れは取れない。

俺が琴葉に負けたという事実は変わらない。

悔しかった。


「やり返してぇなぁ。俺が本気で挑んでも、勝てなかった、実力や経験で追い越された。」


俺の攻撃は空を切り、彼女の攻撃は的確に的を捉えていた。


「まぁ、所々の記憶は無いけど、でも俺の完敗だった気がするな。最後に言われた言葉……」



「────飢えた馬鹿な獣が一番油断する瞬間。それは、獲物をあと一歩で捕食できる!と勝ちを確信した時。最強の獣は、勝ちを確信したとしても、次の一撃に備えておく。そこの力の差で、貴方は私に負けた。」



その通りだ。

俺はあの時堪らなく高揚感に浸っていた。

彼女にトドメを刺せる!そんな気持ちで突進するしかなかった。

だから、全て読まれていて負けた。


その時、音が鳴った。


プルルルル、プルルルル。


電話の音だった。


「────おお、出たな。どうじゃった?」


「師匠……。一応第二次試験を通過出来ました。…でも、ある一人の強い女性がいて、勝てませんでした。」


「ふむ、誰かは分からんが、突破出来たならいいではないか。」


「───悔しいんです。心の底にモヤモヤがある感じというか、勝ったけど勝ってない、みたいな。」


「なるほどな、じゃあ一個お主にアドバイスじゃ、───本気で勝てない相手が目の前に現れた時は、相手を『格上』だと思わない事じゃ。どんだけ強くても弱点は必ずある。それをよく見定め、確実に一撃を与えろ。そうして自分の波にのれば、お主は必ず勝てる。そのポテンシャルを持っているからな。」


「─────確かに、先程の自分は、格上の相手にただ焦って、トドメを刺そうと必死になっていました。」


「そこが勝負の分かれ目だった訳じゃ、いいか、第三次試験はおそらく対人になる。どんな格上が出てくるか分からんが、絶対に今言ったことを忘れるな。……大丈夫、お前は独りじゃない。常にみんなの想いを背負ってる、だから安心して挑んでこい。」


「はい、師匠。────あと、愛菜の様子は……」


「今もぐっすりじゃよ。……あ、でも今日の昼頃、なにかごにょごにょ言ってたような気がするが、なんて言ってたかは聞こえなかったわい。」


「……そうですか。分かりました。色々ありがとうございました。」


「うむ、絶対負けるんじゃないぞ。」


電話が切れた。

やっぱり師匠は俺の事をいちばん理解してくれていると感じた。

俺の直すべきところを的確にアドバイスしてくれる。


「───俺もこんな所で寝てられないし、飯食ったら少し体動かしてトレーニングして、だな。」


このホテルには、トレーニングルームがある。

もちろん全員無料で24時間使い放題という豪華っぷり

筋トレするには最適な場所だった。


────よし、早速行くか!!



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「結構空いてるんだなぁ。」

時間帯的にはゴールデンタイム辺りのはずなのに、人が少ない。

数人はいるが、広いジムの中で数人がいても少なく感じるのは当然だ。


「まぁ少ない方がやりやすいしいいけど、」


と、筋トレ器具を色々見ていたら、見覚えのある顔がいた。


────琴葉だ。

あの激戦の後でも、しっかりトレーニングしている。しかも男性レベルの重量で。


「おいおい、本物のバケモンかよあいつ。」


「──はぁ、はぁ、聞こえてますわよ。全く、仮にもレディーなのにその言い方はないんじゃありませんの?」


「あぁ、悪かった。つかお前、あの激戦の中メディカルカプセルも使わないで筋トレ出来んのかよ。」


「私にそんなの必要ありませんし、……私も、一撃食らってしまいましたしね。あそこで一撃食らってるようでは、強いとは言えませんわ。」


「──努力家だなぁ。お前。」


「──普通の女の子が嫌なだけですわ。私は金持ちも嫌ですが、普通に見られるのも嫌なんです。だから強くなりたいと思うんですわ。」


「まぁ、よく分かんねえけど、お前が強いのは確かだし、それは認めるよ。この未来の世界でお前と再会できるとは思わなかったがな。」


「私も、見た時驚きましたわ。でも、私はまだ"あの時の事"、諦めたわけではありませんからね。」


「あの時……?分かんねえけど、頑張れよ!」


「この天然女誑しが。」


と、筋トレに戻ってしまった。

その横で、同じ器具が並んでいたのでそれを使うことにした。

意地を張ってか、彼女よりも少し重い重量で設定した。


「───ぅ"、んんっしょ!!!」


肩と腕に重い重圧がのしかかる。

ギリギリ持ち上げられたが、明日また試験があるのにここで痛めたら元も子もないと、意地を張るのをやめて適正重量に戻した。


「──そういえば1個、聞きたかったことがあるのですが、」


「ん?なんだ?」


「────この世界に、愛菜ちゃんは居るんですの?」

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