第二十五話『小柳 深海 vs 川崎 琴葉』

空気が一気に変わった。


今目の前に対面してるのは、かつての幼馴染、否、今現在最強の相手だ。

ピリつく空気の中、一歩でも動いたら、斬り合いが始まるような雰囲気────


────先に動いたのは、オレだった。


オレが一歩動くと、既に懐に入られていた。

避けながら受け流そうとバックステップで後ろへ移動し、彼女の攻撃をかわした。


「おお!!すげぇ!!あの攻撃かわせんのかよ!」


完全に他の参加者はオレたちの試合に釘付けだった。


彼女の剣が振り抜かれたのを確認すると今度はこちらが懐に入り、彼女を斬ろうとする。

が、彼女の腕は既にガード体制に入り、木刀ではそのガードを崩すことは出来ない。


「くそっ…、常に先を読まれてる感じだな。」


そう、彼女の速さの理由は、圧倒的な反射神経にある。

彼女は常に次を想定して撃っている。

なので、無作為に動いても読まれるだけ。


なら、シンプルな斬り合いに持っていこう。

そう思った俺は、一気に走り距離を詰めた。


そして、彼女と近距離の斬り合い。

木刀がぶつかる度に、火花が散りつく。


攻撃、防御、攻撃、防御、攻撃─────

お互いの攻撃が当たるか当たらないかの瀬戸際の攻防を繰り広げ、見ている参加者を、上で見ている第一位や二位すらも、釘付けにした。


一旦距離を取り、息を整えた。


「───はぁ、はぁ。ここまでやっても届かないのか。」


「なかなかいい腕前ですわ。昔の私ならやられていたかもしれませんが。今の私は、過去を捨てた私は、絶対に負けませんわ。」


彼女の覚悟は、本物だ。

一度死を経験して、苦しみを経験して、再度リスタートした人の強さは、計り知れない。

俺はその気持ちに答えなければならない。


「まだ、終わらねえぞ!!」


「───そろそろ、私も本気を出しますわ。」


走り、再び近距離で斬り合おうとした時。


「…ぐふっ…!」


腹に激痛が走った。

彼女が最初に見せた、稲妻のような速さに追い付けず、もらってしまった。


「くそ、加減してやがったのか……。」


「最初から本気を出せば、目が慣れてしまうではないですか。ですから後から奥の手として出して、悶絶させたかったんです。」


まだ、倒れねえ。

今日食った朝飯が出てきそうだ。

でも、まだ俺が立ってる限り、終わらねえ。


「────まだ立ちますか、懲りませんね。」


「お前の神速に、負けてばっかじゃいられねえんだよ。」


うぉぉぉぉ!!と勢いよく責めるもあしらわれ、足、手、胸に木刀が振り下ろされた。


「ぐふっ……ぐほっ、うげっ、……。」


彼女の速さは本物だ。

自分が手を出す前に、2手、3手と先をいかれてしまう。

どう対抗していいか分からず、ただ防戦一方になっていた。


「こりゃまずいな、このままじゃ小柳もたねえぞ。」


「そろそろ降参してはいかがですか。私に勝てるとは思えないのですが。」


「───どうにかして、勝てないのか。」


体の至る所に青アザができてる。触るだけで痛い。

ぽたぽたと、血も垂れてきた。

彼女は、ケロッとした顔で見ている。

力の差は歴然だった。


その時、師匠に言われた言葉を思い出した。


「───お前さんは、やるべき事を見誤らず、自分の想いを信じるんじゃ。」


「ワシは最初から、お主の事を心配しておらんがな。」


師匠の想いをを裏切りたくない。

愛菜にまだ、いい報告出来てない。


俺はここで、負ける訳にはいかない。


「─────空気が、変わった?」


「あ、あれ!小柳の様子が!」


"あの頃" のオレだ。

師匠に打ちのめされた時目覚めた。

"戦いに飢えた獣"


「ふふふふははははは、久し振りだなァ、この感覚。1年ちょっとぶりくらいだぜぇ。」


「眼球が赤くなった?深海くんのこの変化はなんですの。全く理解が出来ませんが。」


─────ゴタゴタ言ってんじゃねえぞ。


懐に入った。一発食らわせた。

彼女の腹に一撃。木刀を振り下ろした。


「……ぐは、」


明らかに効いていた。


「はははっ、戦闘中にゴタゴタ話してんじゃねぇよ!!もっと楽しもうぜぇ!!オレは今、最高に気持ちいいんだよぉぉ!!!!」


「──ぐっ、この程度、まだまだです。」


「はぁ??お前苦しそうじゃねぇか。腹一発喰らってみぞおち綺麗に入ったもんなぁ!!次で楽にイカせてやるよ!!!!」


もう一度彼女に剣を振ろうとした瞬間───



グシャ。



───オレは、仰向けに倒れていた。

数分前の記憶が無い。

一瞬の出来事だった。


「何が、起きた?」


彼女が、木刀を腰の鞘に収めた。

頭の処理が、理解が追いつかなかった。


「────飢えた馬鹿な獣が一番油断する瞬間。それは、獲物をあと一歩で捕食できる!と勝ちを確信した時。最強の獣は、勝ちを確信したとしても、次の一撃に備えておく。そこの力の差で、貴方は私に負けた。」


「────なんだと、オレが……負けた?」


何とか立ち上がった。

だが、剣が握れない、震える。

脳が痛い、頭から出血がある。


「その状態じゃ、戦闘続行は困難ですわね?」


「マジかよ……小柳が……」

「負けた……?」


「クソが……クソ、クソが……。」


膝を着いた。オレの負けだ。

完全にしてやられた。

俺の夢は、ここで終わったのか?

みんなの想いを背負って戦ったのに。

ここで、終わりなのか?



─────みんな、ごめん。



「ただいまをもって、第二次試験を終了します。今回残った参加者の数は30名、無事二次試験を突破した皆様はホテルへお戻りください。」


「……小柳。お前は凄かったよ。」


「────クソ、クソが。」


涙が止まらなかった。

悔しさ、情けなさ、様々な感情があった。

なにより、皆との約束を果たせなかった。

全てに絶望していた時──────



「いやぁ、いい物を見させてもらったよ。」


「───団長、」


話し掛けてきたまさかの人物。

最後の土産話にでもと、気を使ったのか。


「それにしても、なぜキミが落ち込んでいるんだ?君は "二次試験を通過したでは無いか" 」


「……え?」


意味が分からずぽかんとした顔で話を聞いた。


「実は、君とあそこの彼女が戦っていた時、既に戦いは終了していて、条件の30人は既に揃っていたんだ。だから、君たちの勝敗関係なく、あそこの場に残っていた全員が第二次試験通過者になっていた、という訳だ。」


「……でも、なんで、」


「君たちの戦いを止めなかったのは、第一位、つまり、私の息子の判断だ。息子が、私にこう言ってきた。」


「────お父様、条件はもう達成されましたが、どうやら、面白そうな試合が始まりそうなので、この戦いだけは、やらせてあげれないでしょうか。」


「なんだ……、じゃあ、俺は……。」


「────おめでとう。第三次試験も是非期待している。」


肩の荷が降りた、と同時に安心の涙が零れた。


「うぉぉぉ良かったなぁァ小柳ぃぃ……!!」


「ほんと良かった、ヒヤヒヤしたんだから…!」


翔也と伊織が騒がしい。

でも、本当に良かった。


「────そうだ。その傷では第三次試験に影響するだろう。メディカルカプセルを使え。そうすれば身体中の傷を30分で治せる。先程の彼女にも使わせねばな。」


「あ、ありがとうございます。」


嬉しかった。

団長にお褒めの言葉を貰ったこと、団長に、少なくとも認められて貰えたこと。


こうして俺達は二次試験を終え、ホテルへと戻った───

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