第二十二話『小柳 深海の決意』
────誰?
見知らぬ女がいた。
俺たちのじゃれあいに馴染んできた。
「誰でもいいだろ。うるさかったから来た。」
「うるさかったから来た…って、鍵しまってただろ。」
「いや、空いてたよ。物騒だなぁって思って開けてみた☆」
「開けてみた、じゃねえよ。」
「まぁいいじゃんかよ、この際面白そうだし、麻雀は飽き飽きしてたからな。」
「確かに、それも一理あるな。」
「じゃあ自己紹介から、オレは小柳深海、コイツは───」
「桜木翔也だ!!馴れ馴れしく "しょうちゃん" って呼んでくれてもいいぜ!!!」
「オレと言い回し違ぇじゃねえか。毎回変えてんのかよそれ。」
「うちは、名古井伊織でーす、なんならー、うちの事をいおちゃんって、呼んでくれてもいいよぉ?」
「なんだ急に、距離の詰め方よ。」
何だかズッコケ三人組のような雰囲気だ。
俺が入っているのが心外だが。
「自己紹介も終わったし、何する?」
「じゃあ折角なら、温泉行ってみようぜ!?」
「ありだな、」
「いいねぇ!じゃあうちも男湯入ろうかなぁ」
「いいじゃねえか!!」
「イヤヨクネエダロオイ!!?」
変な声が出た。
「一応聞くが、女性だよな?」
「うん、女性だけど?なに?男性に見える?はっ倒すよ?」
「いや違くて、なんかやけにすんなり言うからさ。」
「なんだ、そゆことか。でも結構男勝りするとは言われるんだよね。」
「男勝りっつうか、男っぽい……」
「桜木、次余計なこと言ったら大声出すよ?『痴漢ですー!!!』って。」
「さーせん!!すいやせんした!」
この雰囲気も悪くない。
今まで結構張りつめてきたから、こういう交流もありだなと。
そう思いながら、一緒になって笑った。
「じゃあ、温泉入りに行こうぜ。」
「おう!」 「行こう行こう!!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
─────ふぅ、さっぱりした。
このホテルの温泉は、天然温泉だった。
肩こり、リウマチなどなど、よくある温泉の効能だったのだが。
「最近の温泉はすげぇな、便秘とか、老化に伴う治らない神経痛とかにも効くんだもんなあ。」
「先に上がっちまったな、伊織と翔也を待つか。」
と、男湯の暖簾をくぐって外に出ると、とある写真を見る伊織がいた。
───あれ、もう出てたのか?
「あ、小柳、うん、うち髪もそんなに長くないしさ?」
「……これ、何見てたんだ?」
「これ、うちのパパが撮ったんだ。御嶽山って山なんだけど、なんだか綺麗だなって。」
御嶽山。
昔の長野県にあった山の事か。
「この写真、お父さんが撮ったのか?」
「うん、パパが御嶽山がふんたけ …… 」
「あ?ふんたけ……?」
彼女の顔が赤面していく。
俺は何を言ったか分からず、困惑した。
「ふ、噴火って言おうとしたの!!それをふんたけって …… か、噛んだだけ !!」
「ぶふっ…… 」
思わず吹いてしまった。
いきなり言われて説明までされると、流石に笑いが出てきてしまうものだ。
「な…!笑わないでよ!!」
「ははっ、悪い悪い、つい面白くてな。」
「おおっ、2人して何盛り上がってんだ?もしや恋バナか?」
「違うわい!!」
「違ぇよ!!!」
「お、息ぴったりぃ!よっ!新婚夫婦!新婚さんいらっしゃい〜!!」
からかってきた。
2人とも頬が赤く染まり、空気が少し恥ずかしくなってくる。
それに耐えかねた伊織はげんこつを飛ばした。
「お前、次言ったらぶっ飛ばすかんな。」
「ハイ、スイマセン。」
「最近の女子って怖ぇ……。」
「いいから、早く戻るぞ。うち早くUNOやりたい。」
「お、じゃあビリのやつ罰ゲームな!!小柳も強制参加!!」
「へいへい、分かってるよ。」
と、俺の部屋に戻った。
そして、一晩中楽しんだ。UNOにトランプ、オセロに大富豪。気が付けば朝になる前で三人とも部屋で寝落ちしてしまった。
─────ううん……もう朝か。
朝を迎えて第二次試験になれば、桜木とも名古井とも敵同士になる。
それが現実なのに、何故か心がもやもやした。
ずっとこんなにワイワイ出来たらいいのに。
そう心で思ってるのかもしれない。
─────シンくんなら、きっと大丈夫。
彼女の声が聞こえた。
はっと我に返った。
────そうだよな。
気持ちが切り替わった。
俺の本当にやりたい事は、討伐士になって、愛菜の父親が変わった悪の権化、『香良洲』の素性を明かして、香良洲を壊滅させることだろうが。
立て、小柳深海。
前を向け、小柳深海。
気持ちを強く持て、小柳深海。
みんなの想いを背負え、小柳深海。
────戦え、小柳深海 。
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