第十九話『始まりの鐘の音』

───じゃあ、行ってきます。


朝の肌寒い空気、ヒバリの鳴き声、それをかき消すかのように、俺は走った。

決して遅刻しそうになっている訳では無く、体を動かしたくてウズウズしていたからだ。


「うふぉ!やっぱ朝に走ると気持ちいいなぁ!!オタクやってた時は、こんな朝から起きて走るなんてなかったから、初めての感覚だぜ!」


ほんのり汗をかき、体温を上げ、これから起こる決戦の時に向けて、準備をする。


────おはよう、愛菜。


目が覚めると、横に彼女が寝ていた。

呼吸をし、目を覚ますことの無い彼女。


「今日、頑張ってくるからな。…昨日言ったこと、しっかり届いてるって信じてるから。お前の元気、貰ってくぜ。」


そっと手を握った。

寒い朝の空気もあってなのか、ほんのりと彼女の手が暖かく感じた。



─────愛菜のためにも、今日は絶対!討伐士になってやるぜぇ!!!!


大声を上げ、王宮目指して走った。

目の前の王宮に向かって、走り続けた。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




王宮は、東商の中心地。

ビルが多く存在している中、一番の存在感を発揮している。


「すげぇ …… でけぇなぁ、未来ってこんなに進歩してんのかよ。つかまぁ、異種族の時点で、結構進歩してるんだろうけどな。」


自動ドアが空いた、受付らしき所に行く。


「あのー、討伐士認定試験を受けに来た小柳深海ですけど。」


「オハヨウゴザイマス、トウバツシケンサンカシャ、デスネ。ミギノエレベーターヲ、ノボッテ、クダサイ。」


「すげぇ、完全に全部ロボットがやってるよ。」


"近代化" という言葉に相応しい程の技術が詰まっていると感じた。

受付には2人の人間、否、AI搭載のロボットが居て、恐らく全ての受付管理をこのふたりが行っていると思われる。

人件費を削減できて尚且つ間違いも少ない、画期的なシステムだ。


「────ここか、ってうぇ!!何この人数!?!?」


エレベーターを登ると、とある一室に、恐らく討伐士志望の人が大勢集まっていた。集合時間5分前なのにざっと見た感じ600人はいた。


「おいおい、ここは免許センターじゃねえんだぞ。多すぎだろうが。」


討伐士は、基本的に何歳から何歳まで、男女、どんな種族か、などという制限もがなく、誰でもなれるというのが特徴ではあるのだが───


「流石におばあちゃんと小さい子は帰らせてやれよ、流石に無理があるだろうが。」


カーンコーン─────

鐘の音がなった、集合時間になった。


ザワザワしていた空気が一気にピリつき、無音な雰囲気に変わった。

その瞬間、アナウンスが聞こえた。


「団長が入られます。志望者の皆様は後ろに下がり、スペースを作ってください。」


その言葉に従い、皆が後ろに下がると、団長と副団長が入ってきた。


「おいおい、本物の団長様だぞ!」「すげぇ……」「本物だ…!」「あの圧倒的なカリスマ性、俺もなりてぇ!」


「─────静かに。」


一瞬で静かになった。

この人こそが、東商討伐士団団長、神蔵源治。


「今回の討伐士認定試験を担当する。団長の神蔵源治だ。君達には期待している。この素晴らしき伝統を守り抜く為に、優秀な人材が欲しい。精々、人生を賭けるつもりで頑張って欲しい。以上。これから試験の全容を説明する。副団長。」


「───はい、では副団長のマイケルが説明させていただきます。」


「まず、この認定試験には、第一次、第二次、第三次、そして最終試験とあります。試験の功績度に応じて、ポイントが付与されます、そのポイントが多い人が優秀というルールになります。また、最終試験に関しては、上位五人の順位決めとなりますので、皆様が討伐士として相応しいか判断されるのは第三次までとなります。」


「そして、協議の結果、今回から討伐士の人員を増やす事になりました。よって今までは上位5位までが討伐士なれる、というルールでしたが、今回から、上位10名に上げられました。」


「上位10名、前より受かる確率が上がったってことか?」


「ですが、年々応募してくる人数も増えていますので、相対的に難しいのは確かでしょう。そこはご理解をお願いします。」


「ですよねー。」


「そしてこれから、第一次試験の説明をします。最初に君達にはどれだけの身体能力があるかをテストさせていただきます。この部屋の更に上の階には、アトラクションエリアという階があります。そのアトラクションエリアには、様々な仕掛けが用意されています、その仕掛けを潜り抜け、早くゴールに到着できた人から、ポイントが付与されます。」


「なるほど、ポイント制か。恐らくこのパターンは順位によってポイントの数が減ってくるってパターンだろうな。」


「また、今回の試験は3日間かけて行います、その間、この王宮から出る事を禁じます。その代わり、この王宮別館にホテルがございますので、そのホテルで3日間生活してもらいます。必要な道具は全て揃っておりますのでご安心を。」


「ホテル内での私語や交流は許可されていますので、ご自由に。そして第二次試験以降の内容は当日に再度説明させていただきます。この時点でご質問等がある方はいらっしゃいますか?」



「────では、第一次試験のフィールドに、ご案内します。皆さんの健闘を祈っております。」



そう言うと、エレベーターのドアが開いた。



俺の討伐士認定試験が、始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る