第十八話『数多の想いを背負って』

「竜馬って、討伐士の第二位だったのか。知らなかった。そんな大物に助けられたのか。」


「でも彼は、君達のことを楽しそうに話していたよ。"同い歳だから放っておけない" ってね。」


「───そんな時もあったな。あの時は、まだコイツも元気だったのに。」


そんな事を悔やんでいても、彼女は目を覚まさない。

きっと、今も戦ってるんだ。自分の意識と、自分の運命と、必死になっているに違いない。


「今は、この子の運命を信じるしかないわい、そういえばお主、丁度いいところに来た。良かったら深海を、討伐士として推薦してくれんか。」


「──────あなたは …… まさか。…分かりました。ですが僕が推薦しても、実際討伐士になれるかは分かりません。完全に、実力主義の世界ですから。」


「そうじゃな、それは分かっておる。じゃがこやつは強い。ワシが認めよう。」


「────師匠。」


最初の頃は、手が出ないほどボコボコに打ちのめされた筈なのに。今では師匠に認められるほど強くなった、その事実が、何よりも嬉しく、心に響いた。


「それじゃあ、君の腕を確かめさせてもらいたい。これは提案だが、明日開催される "討伐士認定試験" この試験で上位5位に入る事が出来れば討伐士になれる。出てみないか?」


とんでもないビッグチャンスだ。

もはや自分に、断るという選択肢は無かった


「もちろん、出る!」


「そう言ってくれると思ったよ。じゃあ僕から新しい参加者として、小柳深海をエントリーしておく。場所は東商の中心にある『天皇宮殿』集合時間は朝の7:00だ。」


「分かった、持ち物とかはあるのか?」


「特に必要ないよ、そうだ、試験内容は当日に明かされる。僕たちも正直把握していないんだ。日によって試験内容がバラバラだからね。だから、何が来ても大丈夫なように準備しておくことをオススメするよ。」


「分かった、色々ありがとな。竜馬にも、よろしく伝えておいて欲しい。」


「了解した。明日は、君の健闘を見守る事にしよう。────この青年に、神の御加護がありますように。」


と言い残し、消え去った。

アニメや漫画で言うところの "瞬間移動" の類いだろう。


「────深海、この子のことは心配せんでいい、ワシらで見守っておく。お前さんは、やるべき事を見誤らず、自分の想いを信じて望むんじゃ。ここがお主にとって、分岐点になる。絶対、勝ち取るんじゃぞ。」


「────はい、師匠。オレはこの時のために今まで鍛錬してきたんです。」


「────いい面じゃ。ワシは最初から心配などしておらんがな。」


師匠が微笑んだ。

俺も、一緒になって微笑み、再び覚悟を決めた。

どんな試練が待っているのか、ワクワクする気持ちすらある。

気持ちを持ちながら、寝ている彼女の近くに行き───


「────愛菜、ごめんな。昔のオレは未熟で、どうしようもなくて、男として、人間として成長出来てなかった。仕舞いには、愛菜の存在がどれだけ自分の活力になってたのかすら、理解出来てなかった。────でも、今なら分かるよ。君の気持ちの全てを汲み取ることは出来なくても、オレは、君に助けられてばっかりだった。だから今度は、俺が頑張る番だよな。絶対、成果を残して帰ってくるから。またあの時みてえに、玄関から飛び出して、俺を迎えて欲しい。」


溢れ出そうな涙を抑えながら、彼女に語り掛ける。

聴こえているのか、心に響いているのか、分からないけど。俺の心には響いた。

使命感やプレッシャーに押されそうになっても、今の自分なら大丈夫。


─────シンくんなら、大丈夫。

そう言って、背中を押してくれた気がした。


「師匠、少し外出してもいいですか。」


「────構わないが、夜も遅いから気をつけてな。行く場所は大体わかっておるが。」




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




「まさか、こんなに早く戻って来るとは、何かあったのデス?」


「美咲、オレ、討伐士認定試験を受ける事になったよ。明日の朝だ。」


と、今日起こったこと全てを話した、

師匠との対決、愛菜の悲劇、弁慶の存在。

全てを話した。


「────そうだったんデスか、そんなに悲劇が重なって、そのベンケイってやつ、許せないデス!Angryデスよ!!」


「そんなに怒ってくれるとは思わなかったけど、でもオレ、今は認定試験にしか集中してないんだ。」


「実は私も、認定試験を受けた事があるんデスが、私は落とされてシマイマシタ。」


「お前が、落とされたのか?剣術に関しては、討伐士にも引けを取らない強さだろ。」


「"剣術" という一個のカテゴリーだったら、ワタシの方が強いかもですが、試験内容は剣術だけではないのデス。正直、生半可な気持ちで挑めば、後遺症を残して帰る子も大勢いるらしいのデスよ。」


「────マジか、思ってたよりも残酷なんだな。」


「でもワタシは、キミなら行けると思っているのデス。君には、剣術も体術ももちろん備わっていますが、 "何事にも屈せず挑める精神力" があるじゃないデスか、だから、そんなに緊張せず、日々の訓練の感覚でチャレンジすれば良いんデスよ。」


励まされている。

今はその励ましが、俺の緊張を解してくれた。

そうだよな、みんなに持ってないものを、俺は持ってる。

そう信じて、望めばいいんだって。思えた。


「─────ありがとな、訓練に付き合ってくれて。1年って、結構長い期間だからさ。本当に感謝してもしきれねぇっつうか。」


「じゃあ、認定試験が終わった後、ここに報告しに来てクダサイ。そのお土産話だけで、ワタシは嬉しいので。失敗しても成功しても、絶対に来てくださいネ。」


「あぁ!絶対に成功もぎ取って、討伐士の格好でまたここに来るよ。約束だ。」


指切りげんまんの合図、小指を出した。

それに軽く笑いながら、小指を絡めた。


「自分を信じて、自分を律して、あなたを応援してくれる人たちを信じて。頑張ってクダサイね。モチロン、ワタシも応援していますよ。」



───決戦前夜、色んな人の想いを背負い。



明日、運命の時へと駒を進める。

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