第十六話『神に愛された最強』

彼女が息をしていない。


そんなの分かりきっていた事ではあるが、俺はこの時焦る以外に感情が出てこなかった。


「──────おい!!愛菜!!返事をしてくれ!!頼む、頼むから!!」


「ダメじゃ、治癒術師を呼ばねば治らん。傷が深すぎて出血が止まらん。」


「これは酷いな。さっきの大男がやったのか。」


蓮が話しかけてきた。

オレはもう誰でもいいから、こいつを、愛菜を助けて欲しいと思った。


「ああ、銃で打たれた、腕が銃のように変形して、気付いたら打たれた。どうすれば彼女は助かる!!」


「なるほど、天道教は相変わらず法を犯しても目標を達成しようとするんだな。卑怯な奴らだ。」

「彼女の容態は、────ちょっと失礼。」


蓮が愛菜に触れると、愛菜の周りにオーラのような光が浮き出てきた。よくよく見ると、その光は赤色だった。


「────心肺停止、脈も当然止まってるか。」


「……マジかよ。なんで、こうなるんだ。」


「心配しなくとも大丈夫だよ。少し彼女に触るけど、彼女を助けよう。」


「…… 頼む。」


そう言うと蓮は、愛菜の銃弾を受けた腹部を触り、呪文を唱え始めた。


「天に恵まれし恩恵の原石よ、我が主の名のもとに、授かりし恩恵を解放せよ─────」


「な、なんだこれ。すげぇ……」


呪文を唱えながら目を瞑り、神経を集中しているように見える。蓮が呪文を唱えていると。彼女の傷口が徐々に、徐々に塞がっているのが目で確認できる。


「─────境界となりて延命せよ。この者に、安らぎと安寧を。」


全ての呪文が言い終わると、彼女の傷はすっかり塞がっていた。


「──────愛菜!!愛菜の傷が塞がったってことは、助かったのか!!?」


「いや、まだだ。僕の治癒は傷を治すだけで、意識が回復するかどうかはこの子の頑張り次第になってしまうんだ。だからあとは、この子に頑張ってもらうしかない。」


「そんな……愛菜!頑張れ、今度は……今度はちゃんと守ってやるから……、オレ、もう絶対に、お前を見捨てたりしねえから!!」


意味があるかどうかなんて、この際どうでもいい。

オレが、彼女に話しかけたいから話しかけた。叫んだ、魂を震わせるくらいの大きな声で、彼女を呼んだ。


「そういえば、僕はまだ君の名前を聞いていなかったね。」


「あぁ、そうだったな。悪いアツくなっちまって。オレは小柳深海。」


「深海か、よろしく。僕は神蔵蓮。さっきも聞こえたかもしれないけど、討伐士の第一位なんだ。とは言っても、僕にはまだ荷が重いって分かってるけどね。」


「討伐士の第一位って、クソ強えんじゃねえの?いいのか?そんな "最強" がここにいて。」


「討伐士の仕事は、主に平穏に暮らす盗賊たちの平穏を守るためにあるからね。助ける声が聞こえてきて良かったよ。おかげで助けられた。」

「────とは言っても、彼女を助けられなかったのは僕の不覚だ。申し訳ない。」


深く頭を下げてきた。

それに対し申し訳なくなった。


「いやいや!蓮は何も悪くねえんだし、むしろ助けてくれてありがとう。助けてくれなかったら、オレまでやられる所だった。」


「キミの頭も、さっき血が出てただろ。今は固まって塞がってるみたいだけど、一応治療した方がいい。少し触るよ。」


傷口の部分に手をかけ、先程と同じ呪文を唱えた後、きれいさっぱり治った。


「─────治癒術師ってすげぇなぁ。」


「僕は治癒術師じゃないけどね。僕は討伐士の部類だし、僕みたいなケースは中々居ないから。基本的に治癒魔法は治癒術師の力として扱われる。僕は、ちょっと神に愛されすぎただけなんだ。」


「典型的なチートキャラって所か。んじゃあこの世界は基本的にお前が居れば大丈夫みたいな感じになってんのか?」


久しぶりのオタクが出てきた気がする。

約1年ぶりだ。


「そうだな、確かに『東商』の中じゃ、僕が一番強い自負はあるんだけど。他の県の討伐士と比べられちゃうと、正直自信ないんだ。」


「え、討伐士って、県ごとに違うのか?」


「嗚呼、違うよ。それぞれ "7県" ごとに討伐士団が居てね、基本的な部隊構成は同じだけど、人も、実力も何もかも他県とは違うから。」


「─────ん?ちょっと待て。お前今 "7県" って言った?言ったよな?」


聞き間違いか?

俺達が生きていた時は47都道府県だったはずだ、何故7つまで減っているんだ。


「嗚呼、7つだよ?まず1番北の『北海相』そしてその下の『岩町』そしてその下の『東商県』そしてその左の『布山県』そしてその左の『大敷府』そしてその左の『徳川県』そして最後に『沖縄県』沖縄県は大昔離島だったらしいんだけどね、何年かで昔の "九州" が沖縄と呼ばれたらしいんだ。」


「未来になって随分削られてんじゃねえか!何が起こって47から7まで減らされてんだよ。」


「──────もしかして、君達、昔の世界からやってきたのかい?」


「───ぎくり。そ、そうだ。と言っても信じてもらえるかわかんねえけど。」


「討伐士団で香良洲を追っていた時に、似たような事例を聞いたことがあってね。そうか、竜馬が言っていたのは君達だったか。」


竜馬、すっかり忘れていた。

最初に良くしてもらってから長く時間が経ってしまったから。


「そうだ、竜馬にも随分世話になったなあ、結構感謝してるぜ。」


「それは良かった、それにしてもウチの "第二位" と接点があったなんて、知らなかったよ。」



──────え、第二位?

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